第2回 地方企業の活路は、大学の活用にあり/アステック株式会社

 第2回目にご登場願ったのは、山形市で画像処理技術を中心に各種の組込みシステムを開発しているアステック株式会社


■ 地方で起業したメリット

 アステックの創業者、笠原照明氏は「東京には人が多すぎて、息が詰まってしまう。」と感じていた。だから、会社を作るときは絶対に、田舎にしようと考えていた。
 アステック株式会社の設立は昭和58年であるが、昭和60年の調査に、首都圏勤労者の平均通勤時間は64分というものがあった。これは、今でもほとんど変わっていないデータであろう。首都圏の勤労者は、1週間5日として、約10時間を通勤に費していることになる。一方、新幹線ができる前の山形--東京間は6時間ほどかかっていたが、今では山形新幹線の開通によって、その半分以下の3時間弱まで短縮された。首都圏のユーザーは、毎週のように東京に出張してくるアステックの社員に「大変ですね。」と気を使うが、これに対してアステックの社員は「それはまったく逆で、長時間の通勤をされている皆さんの方がよっぽど大変ですよ」と逆に首都圏の勤労者に同情を寄せる。クルマ社会となった山形のような地方都市では、会社までの通勤時間が十数分が常識。毎日1時間以上も立ったままで通勤する首都圏の人に比較すれば、週に1回、3時間座って東京へ出張するアステックの社員のほうが、ずっと楽だという。これは、山形という地方都市に会社があるからこそのメリットである。地方の企業には、この他にも下記のような多くのメリットがある。

無駄な情報が少ないので、情報の管理が楽(人的なネットワークなどを確保しておけば、必要な情報は問題なく手に入る)

地域に同業の研究開発企業が少ないので、技術の差がとても目立つ(会社が目立つ)。

生活環境がよいので、社員の定着率が高い

大学等の数も少ないので、先生達と親密になれる可能性がとても高い

すぐ近くにリゾートがあるので、休日には手軽に保養ができる

同業他社が少ないため、行政の補助、援助が受けやすい

 ちなみに行政の補助は、その事の是非は別にして、一般的に地方への「ばらまき」形式が多いため、人口の少ない地方の方が相対的に手厚い補助を受けやすい。
要は考えようで、地方での起業はメリットにもデメリットにもなるということだ。
ならば、「それらをメリットとして考えるしかない」というのがアステックの考え方だ。

■ 地方企業の優位性を生かす大学との連携

 地方で起業したことの優位性を徹底的に利用するためには、高い技術力を持つことが非常に重要になる。これによって、行政の補助金を利用した地域の大学や工業高専との共同研究や共同開発が可能になり、さらなる技術力の向上を図ることが可能になる。アステックは、これまで山形大学や東北大学、鶴岡高専などとの連携を深め、人的なネットワークを拡大すると共に技術力レベルの向上を実現してきた。大学とのつき合い方には色々な方法があるが、アステックはこれまで受託開発型の企業として、大学や地方の公的研究機関などから画像処理に関連した研究/実験設備の開発業務を請け負ってきた。
一方、製品開発の過程において技術的に困難な課題に直面したときには、大学をその研究・開発の委託先として活用してきた。 補助金をベースにした大学との共同研究を行うことよって、大学の研究者や学生達は同じ釜の飯を食った仲間となり、彼らは将来的に有望な社員候補ともなるという。このように、アステックは大学等を最大限に利用しながら、その技術力を高めてきた。アステックが大学などとの連携に成功したのは、その高い技術力の他にも少なからず秘密があったようだ。アステックの創業者である笠原氏は、鶴岡高専を卒業後、東北大学の職員となった経験を有する。その後、同氏は東京の画像処理機器メーカーに勤務した後、故郷の山形でのUターン起業を果たしたのだが、起業後の忙しい時間を割いて山形大学工学部の修士号も取得している。これによって、アステックは東北大学、山形大学、鶴岡高専との密接な関係を築くことができたのだ。

■ 世界各地の製造工場を活用

 他方、最近では、設計や製造の外注先として、インドや中国を中心に海外企業を活用が可能になったため、もはや企業が日本のどこに位置しているかは無意味になりつつある。
しかし、アステックの場合、現在のマーケット(顧客)は東京に集中しており、今後さらにマーケットを世界規模に拡大することにより、地方企業の特性を生かすことが可能だと考えている。

■ 自社開発の最先端製品

アステックは、これまで蓄積してきた技術をベースに開発した自社製品の販売に力を注いでいる。そのひとつが、自社開発のソフトウェアライブラリの一部を製品化した「動画アプリケーション開発キット・MV-SDK」。さらに、携帯等の電話回線を用いたテレビ中継システムの「Smart-telecaster」(下記を参照)、「汎用プロトタイピング基板:IPSP」なども、同社の自社開発製品である。

このうち、「汎用プロトタイピング基板、IPSP」について、以下に開発の経緯を含めて説明する。

■ 汎用プロトタイピング基板:IPSP

汎用プロトタイピング基板、IPSP

 開発の経緯

 これまで、同社は数多くの評価基板(プロトタイプ・試作基板)等の開発を請け負ってきた。そんな中で、最近のFPGAの大規模化と、高速化により、専用のハードウェアでなく、汎用のハードウェアでもかなりのプロジェクトを評価できるようになってきた。そこで、開発工数の削減と納期の短縮を図るために、大規模FPGAを搭載した「汎用プロトタイピング基板:IPSP」の開発が進められた。

 特長

CompactFLASH(CF)メモリからの自動コンフィギュレーションが実行可能
電源投入(リセット)時に、あらかじめCFメモリ内にストアされているデータにより、IPSPを自動コンフィギュレーションすることが可能。
CF内には最大8パターンのコンフィギュレーションデータをストアすることが可能であり、どれか1つのパターンを自動コンフィギュレーション用に選択することが可能。

USB 2.0からの高速ダイレクトコンフィギュレーション機能を搭載
アルテラ社の開発ソフトウェア、Quartus IIRでコンパイルした後、専用ツールにより直ちにUSB経由でIPSPを高速コンフィギュレーションすることができるため、デバッグ時のストレスが大幅に軽減される。
参考データ 1S60のコンフィギュレーション時間

 

JTAG  : 62秒(QuartusII ver.2.2)

 

USB2.0 : 1秒(IPSP NAVI ver.1.0β)

 

 

※使用したPCは、DIMENSION 8300(Pentium4-3.02GHz/512MB/WindowsXP)

アルテラ社の、高集積FPGA、StratixR デバイスを採用
アルテラ社のStratix ファミリのうち、もっとも高集積な1S80デバイスが搭載可能。

DDR-DIMM(PC2700)スロットを搭載
DDR-DIMM(PC2700)スロットを搭載しているため、大容量かつ高速なメモリを利用することが可能。

64ビット拡張スロットを搭載
64ビット拡張スロットを2本搭載しており、各々がStratixに対して独立に配線されているため、I/Oボードを2枚増設し、Stratixに対して入力と出力を同時に実行するができる

C言語開発環境(高位合成ツール)に対応
IPSPは、C言語開発環境(高位合成ツール)

 

eXCite Tool Suite (株式会社ソリトンシステムズ)

 

DK Design Suite (日本セロックシカ株式会社)

 

この代表的な製品2つに対応。

 用途

工業用画像処理
カメラを用いる殆どのアプリケーションに対応する高性能検査装置

放送・映像機器 SDI & DVIベース・サーバー、ミキサー、フィルター、編集機器、キャラクタジェネレーター等

航空宇宙産業
監視、追跡、記録
グラフィク・オーバーレイ、ディスプレイ

インターネット・データ処理
画像変換
圧縮エンジン
コンテンツ処理

■ アステックのこれからのキーワード、「あつらえ」

 今後、日本のみならず先進国は、全て高齢化社会となる。高齢化社会では全員が何らかの身体機能に問題を抱えていると言っても良く、身体機能は個人により千差万別で、標準品、標準的ということの価値が減少してゆく傾向となる。このため、将来の高齢化時代の製品には、それぞれの機能に応じて、誰でもが使えるという考え方が必要になる。今後、アステックは、まず高齢者でも使える、操作性とユーザビリティの高いシステムの開発を目指す。一方、アジアの経済発展に伴い、日本企業の経済活動もより一層ボーダーレスになることは明白である。このマーケットのボーダーレスはユーザーが色々な人種が多様な環境で使用することを意味するもので、アステックはここでもそれぞれの環境において誰でもが簡単に利用できるシステムの開発を目指してしている。アステック株式会社のこれからのキーワードは「あつらえ」である。個別の、それぞれの機能や環境にあわせて「あつらえ」た、誰でもが使える製品を開発する。これがアステックの基本的な姿勢だ。

 

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