第17話 「2003年の半導体市場予測」
|
|
|
|
2002年の半導体業界 |
|
2001年に、半導体業界は前年比で約マイナス32%成長という悪夢のような大不況を経験した。過去に経験したシリコン・サイクルからすれば、2002年は回復の年になるはずだった。確かに、多くの業界アナリスト達は、「2001年不況は構造不況ではなく、これまでと同じ需要と供給の関係から発生したシリコン・サイクル不況である。」と位置づけていた。
2001年末に各市場調査会社のアナリスト達や業界団体は2002年の半導体市場の予測値を公表した。この時期に各アナリストが公表した2002年の半導体市場の予測を下記に示す。 |
|
2002年の半導体市場の成長予測(2001年第4四半期における予測値) |
調査会社/団体名 |
アナリスト |
2002/2001の成長率予測 |
SIA |
DougAudrey |
+6.3% |
Future Horizon |
Malcolm Penn |
-5.5% |
VLSI Research |
Dan Hutcheson |
+24.0% |
Semico |
Jim Feldhan |
+19.6% |
Data Quest/Gartner |
Richard Gordon, Mary
Olson |
+3.0% |
In-Stat/MDR |
Steve Cullen |
-.5.7% |
IC Insights |
Bill McClean |
+1.0% |
Henderson Ventures |
Ed Henderson |
+4.2% |
WSTS |
- |
+2.6% |
|
出典:InsideChips.Ventures ( Aug. 2002) |
|
多くの半導体アナリスト達にとって、誰もが予測できなかった記録的な落ち込みを見せた2001年の翌年の成長率を予測することは、非常困難な作業であったろう。上記のように、アナリスト達の2002年の市場に対する予測は、2001年末の時点でおおまかに3通りに分れていた。すなわち、 |
|
1) V字回復を予測 |
---VLSI Research、Semico |
2) 前年並みまたは緩やかな回復 |
---SIA、DataQuest、IC Insights、Henderson
Ventures、
WSTS |
3) さらなる低迷 |
---Future Horizon、InStat/MDR |
|
|
結局、WSTS(世界半導体貿易統計)やSIAが公表している最新の集計データからすると、2002年の半導体業界は依存度が高くなった通信機器業界が不振を続けたことや、頼みのPC市場も停滞したことなどから、期待された1)のV字回復を示すことなく、2)の前年並み、または1桁台のプラス成長に終わった公算が強い。WSTSが発表した2002年10月時点の最新の予測データでは、2002年の半導体市場は前年比2.3%増の142Bドル程度になっている。我々が発行しているNewsletter、InsideChips.Venturesでは、最終的な市場データが明らかになった時点で、それにもっとも近い予測をしたアナリストを表彰する予定である。
現在のままでゆけば、DataQuestの予測がかなり実績に近い数値になる。 |
|
調査会社の市場予測データ |
半導体に限らず、特定製品の将来の市場規模を予測するのは、そう容易なものではない。
半導体業界では、IT技術の進展でサプライ・チェイン・マネージメント(SCM)のようなツールが登場した現在でも、需要と供給のバランスが安定せずにシリコン・サイクルと呼ばれる波が、あるときはユーザを、またあるときはサプライヤを直撃する。確かに、過去に比較して半導体が使用される用途は格段に拡がり、半導体が使用される最終製品のライフ・サイクルは非常に短くなった。また、半導体が消費される地域は、従来の欧米や日本からアジアへと急速にシフトしている(2002年にアジア市場は全体の約37%を占め、さらに増加傾向にある)。さらに、実際に製品を購入する大手ユーザには著名なOEM企業だけでなく、受託生産を専門に行うEMS(Electric
Manufacturing Service)企業も加わるようになった。DRAMのような価格変動の激しい製品は、市場全体の規模を示す指標に大きな影響を与える。したがって、半導体の将来の市場規模を予測するのは、以前に比較して非常に困難な仕事になったことは間違いない。我々のような弱小調査会社では、もはや世界全体の半導体市場の成長率を簡単に予測できる状態ではない。実際に半導体製品を供給している主要なメーカが参加し、もっとも信頼性の高いデータを保有しており、もっとも市場の動向を捉えているはずのWSTSやSIAが出す市場予測データが、大きく修正されることも珍しくない。例えば、大不況になった2001年の予測データに関して云えば、WSTSは2001年5月の時点で2001年は前年比でマイナス13%程度と予測していたが、その半年後の2001年10月にはそれをマイナス32.1%へと大幅に下方修正した。 |
|
各市場調査会社のアナリストたちは、過去のさまざまなデータを基準にして、そこに将来の増減要因を加味して予測を行う。それぞれの調査会社やアナリストは、市場規模の予測を行うための基礎データをモデリングする技術などにそれぞれ独特の手法を持ち合わせているかもしれない。しかし、基本的に彼等が市場規模を算出する秘密の公式を持っているわけではなく、各調査会社、またはアナリストの市場に対する判断が予測データの数値になって現れるのだ。特に、新たに登場した技術や製品の将来の市場規模を予測するときは、アナリストの思いこみがそのまま数字に反映されるのである。 |
|
市場予測データの活用方法 |
以前、日本の半導体メーカのある幹部が私に「ある調査会社の市場予測データをベースに積極的な事業計画を組んだところ、実際には市場がひどく落ち込み、当社は大きな損害を被った」と嘆いたことがある。この発言を聞いたとき、私は唖然とした。半導体調査会社の予測データを参考にすることはあっても、それをベースにして自社の事業計画を立てている半導体会社なんてないと思っていたからである。しかし、同様の発言は他の日本企業からも聞いたことがある。海外の半導体メーカは、日本のメーカよりも市場調査会社の予測データを積極的に、また戦略的に活用している。
ただし、彼等が調査会社の市場予測データを活用するのは、顧客や投資家に対して自社が開発した新技術や事業の将来性が高いことを示すときであって、調査会社のデータを鵜呑みにして事業計画を立てているという話は聞いたことがない。事業計画を立てるにあたっての市場予測は、必ず自分の目と足で得た情報をベースにしたものでなければならないのは当然であって、調査会社のデータは参考にしかならないのである。 |
|
そして2003年はどうなる? |
半導体業界の誰もが本格的な回復を期待している2003年が始まった。冒頭の2002年の市場に対する予測と同じように、各調査会社と業界団体が2002年末までに公表した2003年の予測データを下記に示す。 |
|
2003年の半導体市場の成長予測(2002年第4四半期における予測値) |
調査会社/団体名 |
アナリスト |
2003/2002の成長率予測 |
SIA |
DougAudrey |
+19.8% |
Future Horizon |
Malcolm Penn |
+26.4% |
VLSI Research |
Dan Hutcheson |
+19.8% |
Semico |
Jim Feldhan |
+30.0% |
Data Quest/Gartner |
Richard Gordon, Mary
Olson |
+12.1% |
In-Stat/MDR |
Steve Cullen |
+18.1% |
IC Insights |
Bill McClean |
+15.0% |
ISuppli |
Dale Ford |
+15.0% |
WSTS |
- |
+16.6% |
平均値 |
|
+19.2% |
|
出典:insideChips.Ventures (Dec. 2002) |
|
上記から判るように、見解が大きく別れた2002年の予測とは異なり、各調査会社および業界団体の2003年の市場に対する成長率の予測は、はからずも12%から30%までの2桁成長で揃う結果になった。私には例年、他の調査会社とは少し異なる予測データを出す印象があるVLSI
Researchも今回は他社とほぼ同じ+19.8%として予測している。また、伝統的に楽観的に指標を出す印象のあるData
Questがもっとも控え目な+12.1%と予測しているのは、少し予想外といったところだ。WSTSが示した地域別の成長率の予測によれば、2003年は北米が+11%。欧州が+12.9%、日本が+17.4%、アジアが+21.6%、どの地域でも2桁の成長が予測されている。事実、半導体や最終製品の在庫を示す指標は、ここ数ヶ月間で大幅に改善されているようであり、全体で上記のような2桁成長が実現される確率は高いようだ。ただし、アメリカのイラク攻撃などの不安定要素もあり、今年の2桁成長が保証されているわけではないので、今後の推移には大いに注意しなければならない。
|
|
用途別にみると、今年大きな成長が期待できるのはDVD、ディジタル・カメラ、2.5Gの携帯電話端末、ゲームなどの民生用電子機器、DSL、ワイヤレスなどのブロードバンド・ネットワーク、自動車やセキュリティ関連機器などだろう。PC、ワークステーションなどの領域は低成長ながら回復軌道に乗るかもしれない。しかし、携帯電話の基地局や高速光通信などの通信インフラ機器の分野にまだ明るい兆しが見えてこないのは少し気になるところだ。 |
|
私は上記のようなアナリストや業界団体の楽観的な予測が的中することを祈るばかりだが、日本の半導体メーカにとっては、2003年は厳しい勝負の年になるだろう。分社化したNECの半導体事業子会社、NECエレクトロニクスの組織が本格稼動するのは今年からだし、4月には日立と三菱電機の合弁会社、ルネサステクロジ社もスタートする。東芝と富士通の提携関係は、今年さらに進展するかもしれない。坂本新社長を迎えた日立とNECの合弁企業、エルピーダメモリは、中国のファンダリの活用を計画するともに、インテルからの出資を受けることも模索するなど、大きな戦略転換を開始している。これらの日本の大手企業は、市場の本格回復が予想される今年、新しい組織と販売戦略を短時間で軌道に乗せなければならない。2004年も2003年と同様に2桁成長を果たす保証は、どこにもないからである。 |
|
最後に、当然のことではあるが、「すべての半導体業界に関わるすべての企業が2003年に売上や業績を自動的に回復させることができるわけではなく、市場のニーズに適合した製品やサービスをタイムリーに供給できる企業にのみ業績回復のチャンスが与えられる。」だけであることを確認しておきたい。 |
|
2003年1月 |
|
|
|
|
|