第2回 知的財産の対象
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1)知的財産権とは
(1)工業所有権
広義の知的財産とその権利は、第1回の冒頭に説明しましたが、狭義には工業所有権としての特許が中心です。この特許の対象も「物」と「方法」に分かれます。「物」には、化学構造、回路、システムも含まれ、最近ではプログラムも含まれました。方法には、単なる方法と製造方法の2種類があります。
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(特許による権利化の対象)
単なる方法では、権利が発明の成果物に及びません。製造方法であれば、その方法を利用して製造したものにも権利は及びます。ですから、明細書の書き方で権利範囲が違うことになります。
この「方法」には、ビジネスモデル(ビジネス方法と言った方が正確です)も含みます。取らないと商売ができないとか、簡単に金が稼げるとか言うことで騒がれたビジネスモデル特許も最近では4件に3件の出願が拒絶されるようになり、一時の出願ブームが収まったようです。
日本では、発明は「自然法則を利用した…」と制限がついています。ですから、ビジネス方法が権利化できることは、直感的には理解しにくいでしょうが、ビジネス方法の総べてが権利の対象になる訳ではありません。当然今までの発明と同じく新規性や、進歩性といった登録要件が必要で、IT技術を利用したビジネス方法が主な対象です。
米国は憲法に発明保護の規定を置くようなお国柄ですが、発明の定義も広く、有用であれば良いのであって、日本のように自然法則を利用したなどとした制限がありません
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(2)著作権
著作権の保護客体は、表現であり、著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています。
特許や実用新案はいわゆるアイデアの保護であり、同じアイデアの並立を認めていません。並立を認めれば、実質的に模倣による弊害を防げません。しかし、表現では、同じアイデアであっても、表現が異なることはあるわけですから、模倣したのでなければ、結果的に表現が類似しても、並存することが可能なのです。
プログラムを考えてみればわかりますが、果たす機能が同じでも、プログラムが同じとは限らないですよね。
従って、表現の完成によって権利が発生し、登録を要しない点で、ユニークな存在です。
そして、著作権にも登録制度はありますが、それは権利取得のためでなく、権利関係を明らかするためにあります。ですから、著作物を公開したり、著作権を譲渡したなどという事実があったときに、登録することになります。プログラム著作物を除く著作物の登録方法については、文部科学省文化庁の文化庁長官官房著作権課で取り扱っています。プログラム著作物は、(財)ソフトウエア情報センタで扱っており、所管が異なります。
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(3)その他
知的財産法の関連法の中でも不正競争防止法は無体財産を不正な侵害から保護する法規として、現実の様々な具体的な案件毎に判断されていきますが、今後重要な役割を担うことになりそうです。
不正競争防止法は私人による請求を主眼としているのに対し、独占禁止法は公正取引委員会による行政規制に主眼があり、適用者の領域が違います。しかし、独占禁止法も平成12年の法改正で、利益侵害を受けた消費者や事業者が裁判所に訴えて差止請求できるようになりました。
工業所有権のような独占権は、独占禁止法の規定の例外と言われていますが、独占であることが弊害となるような実態があれば、適用されると言われています。
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2)特許権付与の原理
(1) 公開に伴う代償
発明が公開されることにより、それを基礎として更なる技術開発が行われることになり、日本の産業振興に寄与してもらえます。一方、出願人にしてみれば、発明を公開して他人に真似されたのでは、今までの苦労が水の泡、費用回収もまま成らなくなります。そこで国としては、秘匿していただけでは権利を与えません、その新技術を公開してくれたら、独占権という強力な権利を与えましょうというのです。
この原理は、各国とも法制は異なっていても、自国の産業奨励方式として広く採用されています。
したがって、出願前に公開するようなこと、例えば出願前に学会発表,製品展示する(一定の条件で、新規性喪失の例外が認められます)、あるいはサンプル出荷してしまったということは自ら権利放棄したとみなされ、発明は公的財産として誰でもが使えることになります。売り込みに熱心なあまりアイデアを顧客に話したら、出願されてしまったというケースをよく耳にしますが、相手を非難する前に、自分の迂闊さをまず反省せねばなりません。
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(2)先使用権
出願せず、実施していた場合はどうなるのでしょうか。実施していたことは産業に寄与していたということですから,その実施していた事実(だけ)は保護されます。公開の原則に対する例外です。これが先使用権(特許法79条)といわれるものです。権利と言っても特許権者の権利が及ばないだけで、自ら他者に向って主張できるものではありませんし、事業相続以外では、移転することはできません。勿論、後から実施範囲を膨らますことはできませんので、権利が取れない場合の最後の手段と思うべきです。
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3)権利付与の方式
権利付与の様式には、先発明主義/先願主義や審査主義/無審査主義があります。
先願主義は、最先に発明として新技術を公開したものが産業の奨励に寄与するということで、最先の出願人に権利を付与する方式で、多くの国が採用しています。それに対して、先発明主義は米国のみが採用しています。これは、産業の発展に寄与するには、まず発明がなければならず、それには発明者に一義的に敬意を払うべきという考え方です。発明者を保護することは制度的に、論理的に合目的的ですが、誰が発明者かという判定が必要になります。
また、審査主義とは、公的機関で判定基準に基づき審査してそれに違反していなければ登録すると言うもので、多くの国で採用されています。一方、無審査主義とは、方式違反がなければ、申請を認めてしまい、権利行使に付いては自己責任や一定の制限を加えて権利の適正な使用を担保しようとする方式です。
日本では、実用新案制度が無審査制度に移行しました。商標制度については、申請し登録して認める登録主義と、使用実績を見てから登録を認める使用主義があり、多くの国が使用主義を採用しています。
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4)特許権の効力
(1) 特許権は独占権である
特許権は独占権能を持ち、他人の行動を制約する強い権利です。これは、一国の産業発展に大きく作用すると言う現実的な効果を期待して付与されるものです。
ところが、現実に独占権を付与した結果、競争が抑制され、その産業が伸びず、権利消滅後に伸びた例も報告されています。日本でも、不実施や公益の為などの一定の場合に強制実施権の規定を持っています。独占権の弊害が目に付き始めれば、社会的妥当性を失い、独占禁止法の適用対象になったり、特許権として独占権能の見直しがあってもおかしくありません。
(2) 特許権の効力はどこまで及ぶか
特許品を購入して使った人にも特許権の効力は及ぶのでしょうか。特許権はどこまで及ぶかに付いては、実はかなり難しい問題をはらんでいます。「消尽論」と言われる課題です。一般的には、正当な権利者が特許製品を販売した場合には,特許権は消尽し、その後の移転について権利行使できないとされています。つまり及びません。「商品」というものが転売される性質を持っているのですから、1度行使した権利が消滅(消尽)しないとおかしなことになるからです。
ところが、日本と米国に特許権にかかわる製品があるとします。日本では、その特許に対して、独占的な販売権を持つ人がいたとします。ある人が米国でその製品を正当に購入し、日本に持ってきて販売した場合、その人の行為は権利侵害になるでしょうか。「並行輸入」と言われ、国をまたがると難しい問題が生じます。
日本では侵害でないとする判決が多いのですが,これも社会的妥当性が重要で、時代によって変わっていきます。
(3)有限の権利である
平成12年1月1日以降の出願については、出願日から3年以内に審査請求をしないと、権利化への路が閉ざされます。そして、所有者が金銭的対価を得て、経済的に潤った後は、産業振興の為に、公的財産として無償で使用できるように権利期間は有限です。その期間は平成7年7月1日より、出願の日から20年となりました。また、その期間内は権利を維持するために特許料を支払わないといけません。権利を享受するための税金とでも言ったらよいのでしょうか、前年までに決められた額を収めないと権利は失効します。
払い忘れて場合は、条件付で権利を回復することができますが。
年金の額は、特許庁のHPに掲載されています。
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なお、同じ知的財産でも商標権は大きく違います。守るべき対象がビジネスに置ける商標に化体された信用ですから、永続させる必要があり権利更新ができます。
日本では、特許庁(Japan Patent Office)と言いますが,米国では、米国特許商標庁(US Patent&Trademark
Office)といい、特許と商標を別物としているのは、こうした本質の違いを考えてのことだと思われます。
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バックナンバー >>第1回 序論
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