横田英史の読書コーナー
ファスト&スロー(下)~あなたの意思はどのように決まるか?~
ダニエル・カーネマン、村井章子・訳、早川書房
2013.1.22 12:00 am
行動経済学を日常生活に則して解説した書の下巻。「損失は同等の利得よりも強く感じる」というプロスペクト理論だけではなく、つい頷きたくなる事例が多く、上巻に負けず劣らず興味深い内容である。意思決定の際に、我々が陥りやすい罠の数々を紹介し、懸命な選択をするためのヒントを与えてくれる。もっとも、頭で分かっていても落とし穴にはまるのが人間なので、本書を読んでも即効性はないかもしれない。しかし頭の片隅に入れておくのは悪くないだろう。上下2巻の大著だが、行動経済学に興味のある方々に強くお薦めしたい。
本書を読むと、我々の意思決定が認知バイアスに左右され、いい加減で誤りがちになるのがよく分かる。たとえば、一度立てた計画に引きずられ(アンカーになり)、正常な判断ができない。自分がしたいことやできることばかりを見て、他人の意図や能力を無視する。幸運がもたらす役割を無視し、自分の能力で結果を左右できると思い込む。自分の知っていることを強調し、知らないことを無視する。その結果、自分の意見に自信過剰になる。自らを省みたり周囲を見渡すと、思い当たる節が多くありそうだ。
著者は長期的な結果を伴う決定を下す際の心がけを披露する。「徹底的に考え抜くか、でなければいい加減にざっくり決める」というのが筆者の流儀だ。中途半端に考えるのはいけない。ことが起きたときに「あのときもう少し考えれば、もっといい決断を下せたのに」と後悔する。人間は実際に感じる以上に深い後悔を予測しがちである。実際は後悔するにしても、いま考えるほど酷くないという。
書籍情報
ファスト&スロー(下)~あなたの意思はどのように決まるか?~
ダニエル・カーネマン、村井章子・訳、早川書房、p.350ページ、¥2,205
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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