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横田英史の読書コーナー

幸福度をはかる経済学

ブルーノ・S・フライ、白石小百合・訳、エヌティティ出版

2013.2.25  12:00 am

 幸福関連は評者が好んで読むジャンルである。この書評でも、「幸福の方程式」「日本の幸福度」「幸福の研究」などを取り上げた。本書は、これらのなかで最もアカデミックな1冊である。幸福度を測る研究の成果と新たな展開をまとめるとともに、政策との兼ね合いに言及している。センセーショナルに幸福度を扱うのではなく、調査データや学術論文を用いながら慎重に議論を進めているところに好感が持てる。内容的に一般向けとは言えないし日本語訳も少々堅いが、編集者によってシッカリ作られた良書といえる。
 幸福度の経済学は、標準的な経済学の理論と大きく異なっている。定量化(計測)の方法が違うし、家族など社会的な関係や自立の有無といった要素を織り込んでいる。筆者は、「標準的な経済学の理論では、人間の幸福への理解が不足している」と所長する。例えば、標準的な経済学は所得を重視した政策を推しがちなのに対し、幸福度を加味した政策では雇用(労働)と余暇に重きを置くことになると筆者は主張する。幸福経済学はまだ発展途上だが、今後の発展と実際の政策への適用が期待されるところだ。
 筆者は、失業やインフレ、格差、民主主義、結婚、離婚、テレビ、テロなどについて幸福度の研究成果を披露する。例えば所得の増加が幸福度に与える影響は限定的で、幸福感はすぐに醒める。これに対して失業による影響はより大きく、しかも持続的。自営業者と被雇用者では前者の方が幸福という指摘は分かる気がするが、ボランティアが人間を幸福にするという視点は新鮮である。

書籍情報

幸福度をはかる経済学
ブルーノ・S・フライ、白石小百合・訳、エヌティティ出版、p.290、¥3,570

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。