横田英史の読書コーナー
漂白される社会
開沼博、ダイヤモンド社
2013.4.29 12:00 am
元ライターで現在は東大の博士課程に在籍する社会学者の書。さすがにAERAや文芸春秋などで鍛えられただけあって、地に足の着いた社会論になっている。理屈をこねくり回し、すんなり理解できない内容の社会学の書籍とは一線を画している。教えられることの多い良書である。寡聞にして著者が『「フクシマ」論』で脚光を浴びたことを知らなかった。ちょっと楽しみな社会学者の登場である。
筆者は、人々が抱く個人的感覚と社会の実態に乖離が生じていることに着目する。現在の日本は社会の周縁部を「漂白」し、一般人の目から隔離する力が働いていると分析。つまり社会の至る所で、「周縁的な存在」から何らかの偏りや猥雑さ、すなわち「色」が取り除かれている。その結果として、本当は厳然と存在するにもかかわらず、社会的には「無いもの」「あってはならないもの」として隠蔽され、一般人は一見、平和で自由な生活を営んでいるというのが筆者の見立てである。漂白という表現は言えて妙で、社会の実態をうまく表現している。
筆者がフィールドワークの対象にしたのは、売春島、偽装結婚、ホームレスギャル、シェアハウス、違法ギャンブル、脱法ドラッグ、フィリピン人偽装結婚ブローカー、、高学歴の「中国エステ」経営者など12のテーマ。いずれも知られざる日本社会の裏側(貧困)を、足を使った取材で明らかにしている。しかも図を挿入して自らの見立てを分かりやすく解説しており、読者の理解を助けてくれる。
書籍情報
漂白される社会
開沼博、ダイヤモンド社、p.488、¥1,890
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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