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横田英史の読書コーナー

インフォメーション:情報技術の人類史~

ジェイムズ・グリック、楡井浩一・訳、新潮社

2013.5.23  12:00 am

 情報技術の歴史を壮大なスケールで描いた書。訳者が後書きに書いているように叙情詩という表現がピッタリである。600ページに迫るページ数にも驚くが、生物学、言語学、遺伝子学、脳科学に言及し、学問の枠を超えて縦横無尽に持論を展開する筆者の筆力も大したものである。あまりのスケールに付いて行けないところもあるが、仕方ないと諦めるしかない。残念なのは原書にはKindle版があるのに、日本語の電子版が存在しないこと。分厚く重い書籍を持ちは運ぶのはできれば避けたいし、参考文献の多い本書のような本こそ電子版の本領を発揮できる。
 本書のカバー範囲はとにかく広い。もちろんチューリングやシャノン、バベッジ、フォン・ノイマン、ウィナーといったお馴染みの面々は登場する。本書の特徴はシャノンの情報理論を起点に、情報を伝達するアフリカのトーキング・ドラムや辞書編纂、電信・電話、暗号、遺伝子解読、ミーム、量子コンピュータ、Wikipediaなどにまで言及しているところである。万人にお薦めできる書ではないが、いつかは読もうと本棚の片隅に置くのも悪くない。

書籍情報

インフォメーション:情報技術の人類史~
ジェイムズ・グリック、楡井浩一・訳、新潮社、p.589、¥3,360

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。