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横田英史の読書コーナー

歴史を変えた外交交渉

フレドリック・スタントン、佐藤友紀・訳、原書房

2013.6.12  12:00 am

 米国の独立交渉やナポレオン戦争後のウィーン会議、日露戦争のポーツマス講和条約など、歴史の教科書で取り上げられている外交交渉の舞台裏を、臨場感タップリに活写した書。事実は小説より奇なりを地で行ったような興味深い内容の連続で、つい引き込まれて読み進んでしまう。駆け引きの数々はビジネスでも応用できそうである。非常に優れた歴史書であると同時に国際政治学の書でもあり、多くの方にお薦めしたい。
 本書が取り上げる交渉は八つ。独立戦争の裏で進んでいた米国とフランスの同盟交渉、米国のルイジアナ買収交渉、ナポレオン戦争後のウィーン会議、日露戦争のポーツマス講和条約、第1次世界大戦後のパリ講和会議、第1次中東戦争後のエジプト・イスラエル休戦協定、キューバ・ミサイル危機、レーガンとゴルバチョフの日米首脳によるレイキャヴィク会談だ。いずれの交渉も劇的だが、評者の印象に残ったのは米国の独立交渉とウィーン会議、そしてキューバ危機である。
 米国の独立交渉の主役はベンジャミン・フランクリン。フランクリンは、フランスとイギリスの利害関係を巧みに利用し、米国を独立に導く。その粘り強さと信念を、本書は余すところなく伝えている。ナポレオン戦争の後始末で開かれたウィーン会議では、フランスの外交官タレーランが絶妙な舞台回しをみせる。戦勝4大国の分裂を利用し、敗戦国でありながらフランスを会議の中心に据えることに成功。そして欧州の国境線が引き直されたときに、フランスの国益を守りぬいた。本書のハイライトは、核戦争一歩手前の緊張感が伝わってくるキューバ危機だろう。いろいろな書籍を通してキューバ危機についてはそれなりに知っているつもりだったが、いかに浅い知識だったかを本書で思い知らされた。ケネディとフルシチョフの緊迫した駆け引き、米国政権内の緊迫した状況、軍部の想定外の暴走などを、筆者は克明に記している。

書籍情報

歴史を変えた外交交渉
フレドリック・スタントン、佐藤友紀・訳、原書房、p.339、¥2,940

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。