横田英史の読書コーナー
幸福の計算式~結婚初年度の「幸福」の値段は2500万円! ?~
ニック・ポータヴィー、阿部直子・訳、阪急コミュニケーションズ
2013.6.17 12:00 am
幸福とは定量化できるものであり、測定されなければならないという信念のもと「幸せや不幸の値段」を探った経済書。結婚、離婚、子ども、友情、仕事、死別、失業、障害など、人生における数々の出来事の経済価値を論じている。例えば結婚初年度の幸福は2500万円と弾き出す(独身者が既婚者と同じレベルの幸福を感じるには2500万円が必要と言い換えることもできる)。しかし幸福を扱う経済学は歴史が短いこともあって、学問的な蓄積が進んでいないようだ。再年来、この書評で「幸福」を扱った書籍を集中的に取り上げてきたが、さすがに内容のダブリ感が強くなってきた。このところ増加傾向の幸福本のなかで、本書は最も楽しく読める1冊である。
金持ちが貧乏人よりもすっと幸せである。これは当然だろう。しかし、収入が増えたからといって、すべての人が幸せになるとは限らない。むしろ身近な人の収入より多いか少ないかによって幸福感は左右される。なんとなく説得力のある話だ。宝くじの話は笑える。宝くじで12万円以上当たった人の精神状態を調べると、当たった年はストレスを抱えた状態になって幸福度は下がる。幸福になるのはやっと3年後だという。子供の価値は、なぜかとても低い。子供が生まれた最初の年の幸福度の上昇は31万円にすぎない。
それにしても人間とは面白いものである。人は離婚や配偶者の死の悲しみから意外に早く回復する。結婚や子供の誕生の喜びは数年後には消えてしまう。喜びにも悲しみにも意外なほど早く順応するのだ。しかも過去の経験に対する印象は、楽しかったことも不愉快だったことも、そのピーク時と終了時の様子によって左右される(ピーク・エンドの法則)。例えば大腸の内視鏡検査では、検査に長い時間をかかるよりも、途中でとても強い痛みがあったり、終わり近くになってもまだ痛みがあったりする方が、辛い経験として思い出す傾向があるという。
書籍情報
幸福の計算式~結婚初年度の「幸福」の値段は2500万円! ?~
ニック・ポータヴィー、阿部直子・訳、阪急コミュニケーションズ、p.304、¥1,680