横田英史の読書コーナー
センス入門
松浦弥太郎、筑摩書房
2013.7.3 12:00 am
暮しの手帖編集長が考える、センスよく生きるための書。「センスのいい人とは?」「センスを磨くアイデア」「センスの手本」について持論を展開する。筆者の趣味が装丁やイラストなど本全体に反映されており、紙ならではの趣をもつ書籍に仕上がっている。肩のこらない書き口なので、夏休みなどオフのときにお薦めの書である。 心を開くことがセンスのよさへの最初の一歩、友だちはたくさんいらない、あいさつ上手になる、すすめられたことを試してみるなど、筆者の経験をもとに「センスをよくするコツ」の数々を伝授する。洒脱な語り口で嫌味を感じさせないところは、さすが暮しの手帖編集長である。センスを磨くことにお金を惜しまないのも筆者流だ。人に教えてもらってセンスを磨くときに筆者が推すのが、京都の高級旅館(俵屋か柊家?)に泊まること。言われてみれば納得なのだが、暮しの手帖のイメージとのギャップがあり意外性がある。
雑誌編集長の経験者として、評者には筆者の主張に共感できるところが多い。例えば記事のリード部分の書き方。収まりのよい常套句があり、もっともらしいリードを作ることはできるが、それでは読者の心に届かない。上手に書こうとしないで、取材で感動したこと、心に残ったことを素直に綴った方が読者に迫れると筆者は述べる。この気持はよくわかる。
素敵なものは“変なもの”という考え方も理解できる。創刊者の花森安治がいなくなったことで、暮しの手帖の誌面は“変なもの”から“正しいもの”に変わった。その結果、暮しの手帖は元気がなくなった。「言葉にできないけれど、なぜか惹かれる」には、変であることが重要だと筆者は気づいたという。予定調和ではなく、違和感や引っ掛かりのあるところに記事の価値があるというのは雑誌共通だろう。
書籍情報
センス入門
松浦弥太郎、筑摩書房、p.159、¥1,365
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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