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横田英史の読書コーナー

「フクシマ」論~原子力ムラはなぜ生まれたのか~

開沼博、青土社

2013.7.11  12:00 am

 このところ集中的に読んでいる社会学者・開沼博のデビュー作。3.11直前に行った福島原発の周辺地域のフィールドワークがベースになっている。筆者が前書きで書いているように、2011年3月11日以前の福島原発について書かれた最後の学術論文である。本書を読むと、3.11後に学者や知識人たちが訳知り顔で垂れ流した、原発の地元をめぐる論説の浅薄さがよく分かる。ノンフィクション作家の佐野眞一は、「“大文字”言葉で書かれたものばかりの原発本の中で、福島生まれの 著者による本書は、郷土への愛という神が細部に宿っている」と本書を評しているが同感である。ちなみに本書は筆者が2011年1月14日に提出した東京大学の修士論文。その質の高さに舌を巻く。
 筆者は福島原発がなぜあの地域にでき、いかに3.11に向かって進んでいったのかを、原子力、地方、戦後、高度経済成長、エネルギー、政治といった観点から多角的・体系的に明らかにしていく。地域の視点から原子力ムラの成立と発展を解き明かす手際は鮮やかである。筆者は自らの視点を以下のように表現する。「ムラの状況に軸をおきながら、そこに地方と中央がどのように関わってきたのかを見る。水面を見ることによって得られた認識とは違った、水底の位置に身をおき周囲に目を配りながら、水面と水面下双方の動きを見定めることによって新しい認識を得る」。表面をなぞるだけで本質に迫れないマスメディアに警鐘を鳴らす。
 筆者は、原発・原子力施設の維持という点で原子力ムラでは特異な「安定状態」ができていると主張する。原発は運命共同体であり、原子力ムラのシステムをより強固なものにするメディアである。原子力は押し付けられたものではなく、原子力ムラが能動的に求めた結果であることを足で稼いだ取材で明らかにしている。つまり、原子力政策の推進を指向する中央の原子力ムラと、原子力を自らの維持・再生産のために必要とする地方側の原子力ムラが互いに依存しあった結果が現在の状況という。

書籍情報

「フクシマ」論~原子力ムラはなぜ生まれたのか~
開沼博、青土社、p.412、¥2,310

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。