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横田英史の読書コーナー

太陽 大異変~スーパーフレアが地球を襲う日~

柴田一成、朝日新書

2013.8.2  12:00 am

 京都大学の天文台長で太陽物理学者の筆者が、最新の研究成果をもとに太陽の素顔に迫った書。大爆発(スーパーフレア)や黒点が生じる仕組み、地球に与える影響について論じる。新書らしい内容で、ちょっとした知識を身につけるのに役立つ。太陽の物理に関する記述は少し難解だが、そんなもんかと読み飛ばせばよいだろう。夏休みなどの生き抜きに向く書である。
 筆者は冒頭で、1000年に一度の超巨大爆発「スーパーフレア」が起こったときに、地球にどんな影響を与えるかをSF仕立てで紹介する。これが、なかなか衝撃的である。大量の放射線粒子が地球に降り注ぎ、人工衛星はすべて故障し、航空機の乗客のなかには急性放射線障害を起こす人が現れ、北極圏ではオゾン層の破壊が始まり、GPSは動かなくなる。さらに大磁気嵐によって大停電が発生し、全世界の原子力発電所で電源が喪失する。まさに恐怖のストーリーである。ちなみに1989年のフレアは、ケベック州で9時間の大停電を引き起こした。600万人に影響を及ぼし、10億円の被害を与えたという。
 筆者は、太陽とよく似た恒星でスーパースレアが起きていることを雑誌「Nature」で公表した。しかし査読の過程で、地球で起こる可能性を言及した箇所については、「社会を恐怖に陥れる」「太陽で起きる確証がない」との理由で掲載を拒否された。
 太陽の黒点の話も興味深い。このところ太陽の黒点は少ない時期が続いているという。この結果、地球は寒冷化に向かう可能性がある。二酸化炭素が地球温暖化の元凶と吊し上げにあっているが、筆者は寒冷化の歯止めになっているのではないかと指摘する。

書籍情報

太陽 大異変~スーパーフレアが地球を襲う日~
柴田一成、朝日新書、p.211、¥798

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。