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横田英史の読書コーナー

すぐれた意思決定~判断と選択の心理学~

印南一路、中公文庫

2013.8.21  12:00 am

 質の高い意思決定を行う秘訣を説いたビジネス書。ポイントは人間が陥りやすい誤りを自覚し、それを回避して意思決定を行う方法を解説しているところ。イケイケどんどんの成功体験ではなく、認知心理学や行動心理学、社会心理学、ゲーム理論などの知見に基づき、失敗を避けるところに主眼を置く。的確な数多く事例を挙げ、説得力に富む議論を展開しており読み応えがある。意思決定を日々迫られている方々にお薦めしたい。
 著者は慶應義塾大学総合政策学部教授で、この書評で著書「『社会的入院』の研究~」を取り上げたこともある。Wikipediaによると専門は医療政策と意思決定・交渉領域となっているが、最近は全社に傾注しているようだ。ちなみに早稲田大学の内田和成教授がどこかの記事で本書を推薦していたが、すでに絶版になっており古本でしか入手できない。
 筆者は本書で、規範的意思決定論の規範性を引き継ぎながら、これに実証的な根拠を明らかにし、実際的な立場から「すぐれた意思決定」を実現する術を追求したという。確かに本書では、人間の意思決定プロセスに関する実証研究を通じて、人間が共通して犯しやすい誤りを数多く紹介している。これがなかなか役に立チ、意思決定の際の“気付き”につながりそうだ。もともとは1997年と15年も前に出版されたビジネス書だが、議論における多様性や情報技術(IT)活用の重要性にも言及しており、筆者のセンスの良さが光っている良書である。
 本書は3部構成をとっているが第1部と第2部が興味深い。第1部では「我々と意思決定」と題し、意思決定とは何かを論じると同時に、人間の認知能力の仕組みと限界を解説する。第2部「直感的意思決定のおとしあな」は読み応え十分である。情報データの罠、数値データの罠、記憶の罠、推論の罠、直感的な決定ルールの罠といった角度から、人間が陥りやすい落とし穴を論じる。

書籍情報

すぐれた意思決定~判断と選択の心理学~
印南一路、中公文庫、p.323、¥648(ただし絶版)

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。