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横田英史の読書コーナー

インテルの製品開発を支える

ブライアン・デイビッド・ジョンソン、細谷功・監修、島本範之・訳、亜紀書房

2013.8.31  12:00 am

 タイトルと内容に少々ギャップがある。筆者は米Intelのフューチャリスト(未来研究員)で、SF小説や映画、コミックを使って「10年後」を予測している。ただし、その予測がIntelの製品開発にどのように生かされているかについて、本書ではほとんど言及していない。評者同様に「Intelの製品開発」というタイトルにひかれて本書に興味をもつ方は少なくないと思うが、その期待にダイレクトに応えてくれる内容ではないことに注意が必要である。
 フューチャリストは「未来予測とは、未来を予言することではない。われわれの日々の判断や行動から、未来は作られていく」というスタンスに立って消費や事業を企画する。そのときのツールがSFプロトタイピングであり、未来を予測するときに、現実の科学技術に基いた小説や映画、コミックを駆使する。小説や映画、コミックが展開する想像の世界を足がかりに、未来と対話することで将来起こることを予測する。人間が想像力を縦横無尽に展開できるメディアを活用するSFプロトタイプは実に興味深い。
 筆者は本書で、SF小説、映画、コミックを手がける作家、科学の専門家へのインタビューによって、SFプロトタイピングの効用を明らかにする。巻末には、実際のSF小説とコミックを掲載して読者の理解を助けている。興味深いのはSF小説「ブレイン・マシーン」に登場するジミーと呼ばれるロボット。この召使いロボットは、主人の状況に合わせてジントニックを作る。これが、周辺の環境に適応し、複数の人格を切り替えて動作する人工知能の研究につながることを本書は明らかにする。

書籍情報

インテルの製品開発を支える
ブライアン・デイビッド・ジョンソン、細谷功・監修、島本範之・訳、亜紀書房、p.336、¥2,310

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。