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横田英史の読書コーナー

検証・学歴の効用

濱中淳子、勁草書房

2013.9.9  12:00 am

 統計データにもとづいて、学歴の効用の“現在”を説得力をもって論じた書。大学、大学院、短大、専門学校、高専などについて漠然と感じていたことが数字で裏付けられたり、逆に先入観を覆されたりと読み応えのある書に仕上がっている。例えば効用で見ると、大卒の有利性が際立っている一方で、効用の面で高専・短大卒は高卒と同レベルになっているという。このほか女性の方が男性よりも学歴の効用がかなり大きい、女性の学歴の結婚市場における価値、専門書を読む習慣は所得にプラスの影響を及ぼすといった考察は興味深い。学歴や家族の教育に興味をもっている方に強くお薦めしたい書である。
 なお大学入試センター准教授の筆者は、本書を執筆した理由をこう述べる。先行き不透明な時代に突入して、自らの努力で学歴を高める意義が以前よりも増している。個人の力でなんとかコントロールできる数少ない地位達成手段が、教育訓練、教育投資、学歴なのであれば、いまこそ実態を見直すべきではないか、と。
 本書は大きく3部構成をとる。第1部は「大学という学歴を問い直す」と題して、高卒との違い、出世する大学と出世しない大学、大卒人材の価値といった切り口で話をすすめる。次に焦点を当てるのは女性教育と専門学校、大学院。最後に学歴不信を形成した社会的な要因、どうすれば学歴と健全に向き合う社会を築けるかについての提言を示している。
 筆者は、自律的に学び、自ら成長するところに大卒の価値があると繰り返し述べる。この自己学習の姿勢を培うのが大学教育の意義だと断じる。一方で高卒は、他者との関わり、上司やロールモデルのなかで成長する。転職前の経験といったキャリアパスを有効に活用できるのが大卒の特徴だと論じる。ちなみにリクルートワークス研究所の調査によると、自己学習をしている人は、していない人に比べて、およそ3%所得が高い結果が出ているという。

書籍情報

検証・学歴の効用
濱中淳子、勁草書房、p.256、¥2,940

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。