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横田英史の読書コーナー

「ものづくり」の科学史~世界を変えた《標準革命》~

橋本毅彦、講談社学術文庫

2013.9.20  12:00 am

 “標準”について誕生の経緯から現状までの3世紀を扱った書。技術者にとって無視できない標準について体系的に論じている。情報技術(IT)についての記述に物足りなさが残るが、多くの技術者の方にお薦めしたい。講談社学術文庫の面目躍如といった感がある良書だ。
 標準化の歴史は18世紀のフランスに始まる。フランスの技術者が互換性のある部品から成る銃の製造法を開発したのが端緒である。この技術を米国に輸入したのが、後に米国大統領となるトマス・ジェファーソン。米国に上陸した標準化技術はいっきょに花開く。当初の目的は修理を容易にすることで、互換性部品で量産しコストを下げて製品価格の低減につなげるといった発想はなかった。互換性技術は、コルトなどの拳銃の製造から始まり、ミシン、自転車、自動車、コンテナとその適用範囲を広げる。筆者は数々のエピソードを盛り込みながら発展過程を丹念にたどっている。この辺りは読み応えがある。
 19世紀になると互換性は標準化・規格化へと進展する。企業ごとの互換性は、業界全体をカバーする標準化に姿を変えていく。筆者はまずネジを例示して、標準化にいたる道程を明らかにする。本書の特徴は具体的な事例を挙げて議論を進めるところである。コルトの拳銃、シンガーのミシン、T型フォード、紙のサイズ(A/B判、レターサイズなど)、キーボード(QWERTY配列とドボラク配列)、ARPANETなど興味深い話が盛り沢山である。

書籍情報

「ものづくり」の科学史~世界を変えた《標準革命》~
橋本毅彦、講談社学術文庫、p.288、¥1,008

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。