横田英史の読書コーナー
技術者たちの敗戦
前間孝則、草思社文庫
2013.9.30 12:00 am
昭和史に名を残した6人の名技術者が戦時中どのように過ごし、敗戦をどのように受け止め戦後活躍したのかを描くノンフィクション。風立ちぬの堀越二郎を取り上げていることもあって脚光を浴びているが、それ以外の技術者たちの話も興味深い。単純な評伝に終わるのではなく、彼らの技術思想や哲学にも迫っている。筆者は石川島播磨重工でジェットエンジンの設計に20年あまり従事した後にノンフィクション作家に転身した。著者の技術者への愛情が感じられる良書である。多くの方に強くお薦めしたい。
本書が取り上げるのは、ゼロ戦の設計主務者・堀越二郎のほか、新幹線の生みの親・島秀雄、造船日本を生んだ合理化の鬼・真藤亘、レーダー開発の緒方研二、ホンダF1の立役者・中村良夫。伝説ともいえる製品やシステムを開発した技術者たちだが、全員が必ずしも正当に評価されていなかったり、不幸な晩年だったりする。例えば島は新幹線の開業式典に招待されていない。合理化の鬼と呼ばれた真藤は、田中角栄や後藤田正晴とわたりあった剛毅な性格だが、リクルート事件に足をすくわれた。筆者は名技術者の人物像を浮き彫りにすることで、これらの原因を明らかにする。
書籍情報
技術者たちの敗戦
前間孝則、草思社文庫、p.313、¥861
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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