横田英史の読書コーナー
日本の「情報と外交」
孫崎享、PHP新書
2013.10.31 12:00 am
外務省情報局分析課長や国際情報局長を歴任した筆者が、CIA やMI6、旧KGB といった各国の情報機関との交流や外交官としての経験にもとづき、日本外交におけるインテリジェンス不在を指摘した書。今も昔も“空気”に左右され、情報を的確に分析して適切な行動につなげることのできない日本の政治・外交・社会を痛烈に批判している。英国のしたたかな交渉術など、仕事の役立ちそうなヒントが散りばめられており、ビジネス書として読むこともできる。多くの人にお薦めの1冊である。
筆者は日本の外交をこう分析する。「政策決定において、論理よりも空気が重んじられる傾向は戦艦大和の最後の出撃と重なる」「願望が先行し、都合の良い情報ばかりが集められる政策立案が繰り返された」「相手の脅威を過小評価して自己の能力を課題に評価する傾向がある」など。いずれも的確な指摘で、納得性が高く読み応えがある。事例はいずれも具体的。例えば、石油危機やニクソン訪中(キッシンジャー外交)、中東問題、イスラム革命などで、日本外交はどう判断を誤ったのかを説いている。このほか、ベルリンの壁崩壊のキッカケを作ったハンガリー政府、ゴルバチョフ政権崩壊の裏に米国の盗聴といった知られざる裏話も多い。エンターテインメントとしても楽しめる1冊である。
書籍情報
日本の「情報と外交」
孫崎享、PHP新書、p.269、¥819
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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