横田英史の読書コーナー
「幸せ」の経済学
橘木俊詔、岩波現代全書
2013.11.8 12:00 am
何冊も読んだので少し飽きてきた「幸福の経済学」関連の本だが、新刊本が出るとやはり手にしてしまう。本書は、「日本の経済格差」「家計から見る日本経済」「女女格差」などで知られる橘木俊詔が著者とあって、安定感のある啓蒙書に出来上がっている。古典派に始まり現代まで、経済学が幸せをどのように捉えてきたかを知ることができる。「幸福の経済学」の入門書としては悪くない。ただし類書に比べて特段のアドバンテージが感じられないのも事実である。
著者は、各種の調査・分析結果を用いて、幸せは必ずしも消費の最大化、あるいは所得の最大化だけで得られるものではないと主張する。本書の特徴は日本国内だけではなく、世界各国のデータに基づいて議論を進めているところ。日本と世界各国の幸福感の違いを、統計データを駆使して論じており説得力がある。
幸福な国とされるデンマークとブータンについては1章を割いている。社会保障制度の重要さ、人々の平等意識の大切さ、人々の心や精神、家族やコミュニティにおける絆の重要さを具体的に論じているのも悪くない。もっともブータンは、2005年の時点では国民の97%が幸福だと感じている国だったが、2010年には41%まで急落した。国民が外国の豊かな生活を知るようになったことや、経済の果たす役割が人生では大きいと国民が思うようになったことが原因だと著者は分析する。なんとも幸福感は移ろいやすい。
書籍情報
「幸せ」の経済学
橘木俊詔、岩波現代全書、p.184、¥1,785
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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