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横田英史の読書コーナー

「曖昧な制度」としての中国型資本主義

加藤弘之、NTT出版

2013.12.5  12:00 am

 「曖昧な制度」が中国の経済発展の背景にあると論じた書。筆者の問題意識は、「市場経済システムは先進国に比べて劣っているのに、なぜうまく機能しているのか」にある。この疑問を、歴史的な視点や多角的な比較、グローバルの観点から解明する。制度に組み込まれた曖昧さがポイントだと著者は見る。内容はなかなか刺激的。中国型資本主義の強さと弱さ、欧米諸国やロシアの資本主義との違いを詳細に分析しており説得力に富む。中国の経済と社会の仕組みを理解するのに役立つ一冊である。難儀な隣人に興味をもつ方にお薦めしたい。
 筆者はまず中国史を紐解く。官と民を明確に分けるのではなく、両者が曖昧に併存する制度は中国の歴史的伝統に根ざしている。また国有企業や地方政府といった、本来なら市場経済の担い手になりえない組織が、激しい市場競争を繰り広げているところにも中国型資本主義の特徴を見る。中央政府が地方政府に財政上の自主権を与えたことによって地方政府のあいだに競争が起こり、経済発展しつながった。中国といえば汚職などの腐敗のイメージがあるが、一定の腐敗官僚が出現するリスクを織り込んで、民営企業家や官僚に自由な経済活動を行わせるのが中国のやり方という。地方官僚の昇進競争も、汚職などの腐敗によって非効率に陥ることにつながったと著者は論じる。
 次に取り上げるのが中国が起こしている国際摩擦。国際ルールに対して、国内ルールを使って挑戦しているように見える中国だが、中国のルールがグローバルのルールに取って代わることはないというのが著者の見立てである。ただし、中国を含む新興国が先進国と同レベルの経済水準に達した時の、新たな世界秩序が再編されることは否定しない。最後が、中国経済の成長の持続性である。筆者は以下のように論じる。イノベーションを伴わない成長は持続可能ではない。現在の中国は体制移行の罠と中所得国の罠に陥っており、持続可能な成長には成長体験から決別し、新たな発展モデルへの転換が欠かせない。しかし相当の摩擦と抵抗が予想され容易ではないと著者はみる。

書籍情報

「曖昧な制度」としての中国型資本主義
加藤弘之、NTT出版、p.291、¥2,625

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。