横田英史の読書コーナー
新しい国際通貨制度に向けて
高木信二、エヌティティ出版
2014.1.21 12:00 am
NTT 出版が始めた企画「世界のなかの日本経済ー不確実性を超えて」の初回に配本された書である。世界経済を支える金融システムについて、わかりやすく解説している。筆者は第1章「国際通貨エイドとは何か」で、新興国の台頭を背景として変貌する国際通貨制度の枠組みと、グローバル金融危機を踏まえた国際金融アーキテクチャーの改革について論じると、執筆の意図を述べている。また国際金融の制度改革に向けて日本なし得る貢献と、日本が国際通貨制度に関わる意思決定における影響力を維持するための方策を提示することも本書の狙いだという。これだけ読むと少々堅苦しい印象を受けるが、意外に読みやすく、国際金融の仕組みをざっと知るには好適な書に仕上がっている。
筆者は、為替政策に関する行動規範、世界経済の相互依存とリスク、経済危機のメカニズム、揺らいでいる既存パラダイムなどについて、それぞれ章を設けて論じる。例えば為替政策に関する行動規範では、資本自由化、変動相場制、中央銀行によるインフレ目標制を歴史を踏まえ解説してる。このほか、 IMF などの多国間主義、G20といった政府間主義、EU 等の地域主義について重点的に説明を加える。
全体に比較的抑え気味の筆致で持論を展開しているが、日本の財政・金融政策、国際金融における日本のプレゼンスのなさ(知的能力の不足)、筆者が7年間勤務したIMF への批判は手厳しい。特に英国やフランスが日本より経済力が小さいにもかかわらず、国際通貨制度の意思決定において、圧倒的な影響力を行使してきたことに比べ、日本の存在感のなさを嘆く。オランダーやベルギーでさえ、日本以上のプレゼンスを示しているという。ちなみに本書は大阪大学経済学部での講義がベースになっている。そのため学生に向けたメッセージといった趣もある。これが筆者の熱いメッセージにつながっているともいえそうだ。
書籍情報
新しい国際通貨制度に向けて
高木信二、エヌティティ出版、p.275、¥2,520