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横田英史の読書コーナー

政権交代と政党政治(歴史のなかの日本政治6)

飯尾潤編、中央公論新社

2014.2.7  12:00 am

 民主党政権の誕生と下野の経緯と背景を主に分析しているが、英国との比較などカバー範囲は広い。首相の面会データから政権の運用手法を分析するといった斬新な切り口を提示している点が興味深い。学者が中心になっている割に堅苦しさが気にならず読みやすい。7章に分かれ、それぞれ異なる著者が担当する。この手の本には珍しく著者のレベルが比較的合っていて、違和感なく読む進むことができる。あの政権交代が何だったのかを知りたい方にお薦めの1冊である。
 章立てはなかなか魅力的。例えば第1章「自民党政治と政権交代」で注目するのは、議員数に比べて異様なほど高い影響力をもった新党さきがけ。民主党政権の中核人材を輩出するとともに、自民党を弱体化させる役割を担ったと分析する。しかも交渉のプロセスをメディアを見せることで、多数党のなかで埋没せず、存在感を際立たせた。日本政治における連立政権形成の範型を示したと評価する。
 第2章では、自民党と民主党の党首の属性を分析することで、政権交代期における最高指導者像を描く。自民党の指導者に求められる素質は明らかに変化している。候補者の選挙区が都市型になるとともに、当選回数と党役職経験者が少なくなっているという。しかも変化をもたらす候補者が派閥のリーダーでなくなっている。また第4章では、民主党政権の何が問題だったかを、政党ガバナンスの側面から分析する。
 最後の第7章は、マスメディアの問題を取り上げる。民主党への政権交代によって、自民党の有力者としか付き合ってこなかった大新聞の有力記者の人脈はあまり意味をもたなくなった。政治記者が語る「いまどきの政治家」に対する慨嘆は、民主党の経験不足や人材難だけではなく、自らの無力さを表していると見る。政治報道をはじめとする報道の質を上げることには困難だと予測する。

書籍情報

政権交代と政党政治(歴史のなかの日本政治6)
飯尾潤編、中央公論新社、p.278、¥2,940

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。