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横田英史の読書コーナー

「知恵」の発見

山本七平、さくら舎

2014.2.21  12:00 am

 1977年の「実業の日本」に掲載された山本七平の著作を再構成した書。もはや加筆や追加できない状況なので、構成が水増し気味になっているのは致し方ないだろう。30年以上も前の著作とあって古さを感じさせる記述が少なくないが、山本らしいユダヤ文化や西洋文化、聖書についての薀蓄に触れられる。米国では、セールスマンの一番の参考書が聖書という見方も興味深い。学生時代に影響を受けた名著「空気の研究」のバックグラウンドを知る意味でも貴重な1冊である。
 山本の真骨頂は日本文化と西洋文化との比較だ。特に聖書に基づく西洋文化の解釈は独特で、本書でも「日本人の空想力の乏しさ」を新約聖書と関連付けて論じている。平等の概念を日本と西洋を比べる手際も鮮やか。日本社会では、お互いに人間だから平等だとされる。西欧では、法律と規約と各人が契約を結ぶ。その契約が同じだから平等だと解釈する。
 本書の今日的な価値は、論争における日本の異質性についての論考だろう。西欧人の論争の手段は、引用であり、事実の提示である。論争は事実によって解決するもの。相手の言葉への言い負かし的な反論は意味をなさない。日本の論争では、敗北主義者的とか右翼的といったレッテルが貼られ、倫理的な糾弾が始まる。言って言って言いまくって、ワーワー言って、何だか分からなくして、相手を言い負かす。どこかで見た風景である。

書籍情報

「知恵」の発見
山本七平、さくら舎、p.196、¥1,470

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。