横田英史の読書コーナー
戦争の世界史(上)
ウィリアム・H・マクニール著、高橋均・訳、中公文庫
2014.5.15 1:06 pm
世界の歴史を「戦争」の観点から解説した書。兵器や軍隊といった戦争に直結する話だけではなく、社会や経済、金融、技術革新など戦争に関係する事柄にほどよく目配りしながら議論を進める。過去において軍事力をどのように強化されてきたかを論じるとともに、技術と軍隊組織、社会の間の均衡がどのような変化を遂げたかを明らかにする。広い視野から縦横無尽に世界史を腑分けしていくのが本書の特徴である。とりわけ社会との関係についての論考がユニークでためになる。上巻では古代文明から産業革命までをカバーする。上巻だけで450ページ超と大部な上に、翻訳にこなれていない部分もあるので読むのに難儀をするが、世界史を整理できる貴重な1冊である。
筆者は戦争の産業化(ビジネス化)が世界史におけるターニングポイントだったことを明らかにする。冒頭は中国だが、中国にとって代わったのが戦争をビジネス化した欧州である。傭兵軍隊が標準となった北イタリアが先駆けとなり、次第に主流は西ヨーロッパへと移っていった。中国をはじめとするアジア諸国の官僚制と保守主義が、失敗のリスクを最小限にするために、古くから慣れ親しんだ手法を取り続けた。一方のヨーロッパは民間資本が主体となり技術革新をテコに国力を高めていった。これが中国とヨーロッパの逆転につながったという。このあたりの議論はなかなか刺激的である。このほか、軍隊の組織論と教育論、英国の産業革命における英仏戦争の意味についての考察など、興味深い話が多い。
書籍情報
戦争の世界史(上)
ウィリアム・H・マクニール著、高橋均・訳、中公文庫、p.477、¥1440
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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