横田英史の読書コーナー
記憶のしくみ(下)
エリック・R・カンデル著、ラリー・R・スクワイア著、小西史朗・監修、桐野豊・監修
2014.5.26 12:31 pm
記憶のメカニズムについてノーベル賞学者が執筆した啓蒙書。脳はどのように学習し記憶するか、短期記憶と長期記憶の違い、加齢に伴う物忘れとアルツハイマー病との違いなどについての最新の研究動向をまとめている。下巻では、記憶を貯蔵するメカニズムについて解説する。人体の不思議さと精緻さを感じさせてくれる。優れた啓蒙書だが、かなり専門的なので油断すると付いていけなくなるので要注意である。それなりに気合を入れて読んでいただきたい。
下巻では、短期記憶が長期記憶に移行するメカニズムを明らかにしている。分子生物学と遺伝子学によって、長期記憶への移行には遺伝子のスイッチをオンにし、新しいタンパク質の作成が必須ということが分かってきた。では、長期記憶に必要な遺伝子やタンパク質は何なのか。本書は、次々に湧くこうした疑問に答えていく。
気のなるのが“加齢に伴う物忘れ”の話である。歳をとると長期記憶を作ることが難しくなるが、これは内側側頭葉のシナプスの部分的な欠損や、年を取ることで起こる生理学的な変化によるものだという。DNAの転写活性因子から受ける刺激が弱まり、転写抑制因子の活性を弱められなくなってしまう。この転写活性因子と転写抑制因子の活性には、人によって先天的な違いがある。つまり物忘れも遺伝的な要因が少なくないということだ。
書籍情報
記憶のしくみ(下)
エリック・R・カンデル著、ラリー・R・スクワイア著、小西史朗・監修、桐野豊・監修、p.304、¥1728
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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