横田英史の読書コーナー
献身 遺伝病FAP(家族性アミロイドポリニューロパシー)患者と志多田正子たちのたたかい
大久保真紀、高文研
2014.6.2 10:33 am
骨太のルポルタージュ。FAP(家族性アミロイドポリニューロパシー)と呼ぶ遺伝病の患者と家族の人生、彼らを支援する志多田正子の活動を克明に追っている。FAPは、肝臓で作られる特殊なタンパク質が神経や臓器にたまり、皮膚の感覚がなくなったり、下痢を繰り返したりして衰弱していく病。寝たきりになって10年ほどで死に至る。完治できる治療法はまだ見つかっておらず、肝臓移植が病気の進行をおさえる唯一の方法だ。日本では特定の地域に多く見られたことから、患者と家族は差別にさらされてきた。朝日新聞の編集委員である筆者は、小細工のない書き口で患者と家族の苦悩を綴る。月刊誌FACTAの書評で知り購入したが大正解。心にズドンと響くノンフィクションで、お薦めである。
遺伝病ゆえに、家族と患者の苦労・苦痛は並大抵ではない。結婚、妊娠、出産といった人生の岐路で深く悩まざるを得ない。本書には、患者や家族がここまで心情を吐露するものなのかと思わせるエピソードが次から次へと登場する。例えば臓器移植の話。唯一の治療法である肝臓移植は多くの問題を抱える。現在の主流は生体肝移植だが、健康な人を傷つけることを前提になってしまう。しかも、親から子ども、兄弟間、夫から妻へと生体肝移植が連鎖する。夫から妻への生体肝移植を断念し、遺伝によって発病するかもしれない子どものために肝臓を残しておく話なども辛い。
上梓するときに、「事実を伝えるほど苦情が来るかもしれない。それが不安だ」と著者が伝えると、志多田はこう答えたという。「苦情が来るくらいでないと、真実を書いていないということ。真実を書けば苦情がくる。それでいいよ」と。この言葉の通りに本書は仕上がっている。ちなみに志多田は今年の2月10日に73歳で亡くなった。筆者は追悼文を朝日新聞のWebに寄せている。
書籍情報
献身 遺伝病FAP(家族性アミロイドポリニューロパシー)患者と志多田正子たちのたたかい
大久保真紀、高文研、p.464、¥3240

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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