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横田英史の読書コーナー

未来を切り拓くための5ステップ:起業を目指す君たちへ

加藤崇、新潮社

2014.6.4  10:35 am

 ベンチャーキャピタリストでありプロの経営者でもある筆者が、起業を成功させるノウハウを開陳した書。日本の若者は捨てたものではないと思わせてくれ元気が湧いてくる良書である。評者がもう少し若ければ、大いに感化されたかもしれない。成毛眞が「2014年最高のビジネス書、完全無欠の起業のバイブル」と絶賛するのも納得できる。筆者はIT企業の経営者や投資家としての経験から、起業や社長業の成功の確率を高めるパターンを発見したという。本書は世界に勝てる若者を生み出すための教科書的存在になると自負する。ベンチャー経営者やベンチャーキャピタリストの発言を至るところで引用しているが、珠玉の言葉の数々は秀抜である。みんな、本当にいいことを言っている。この部分を読むだけでも本書の価値はある。残念なところを指摘するとしたら、お手軽なノウハウ本を思わせる装丁だろう。
 筆者は、2人の東京大学助教と人型ロボットベンチャー「SCHAFT」を2012年に立ち上げ、翌年には米Googleに同社を売却したことで知られる。SCHAFTは、米国防総省DARPA主催の二足ロボットコンテストで世界一に輝き、技術の確かさを証明した。筆者の見るところ、SCHAFTの成功は「日本の旧態依然とした経済・社会システムに対するアンチテーゼ」である。SCHAFTへの投資話を持っていった全ての日本のベンチャーキャピタルは尻込みしたし、産業育成を目的としているはずの政府系ベンチャーキャピタルも同様だったと振り返る。中央官庁や大企業も支援に躊躇したという。
 筆者は日本の若者をこう見る。日本の若者は人生やキャリアをトーナメント戦だと考えているのではないか。だから負けない試合をしようとする。対戦相手と距離を取り、引き分けをねらいながら時間を過ごし、最後に鼻の差一つの小さな手で勝とうとする。トーナメント戦という考え方からは大きな発想は生まれてこない。そうではなく、初期の失敗や挫折が後の人生を豊かにするリーグ戦だととらえるべきだと。なるほど。

書籍情報

未来を切り拓くための5ステップ:起業を目指す君たちへ

加藤崇、新潮社、p.304、¥1512

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。