横田英史の読書コーナー
会社が消えた日~三洋電機10万人のそれから~
大西康之、日経 BP 社
2014.6.14 2:16 pm
新潟中越地震における工場の被災をキッカケに経営危機が表面化し、ゴールドマン・サックスと大和証券SMBC、三井住友銀行による3000億円の出資、この金融3社による事業切り売りを経て、パナソニックに買収された三洋電機。ピーク時の売り上げは2兆5000億円に達し、10万人の従業員を抱えていた。しかし、この10万人のうちパナソニックに残ったのはわずか9000人にすぎない。本書は、三洋電機の経営破綻を井植敏や野中ともよといった経営幹部への取材で振り返るとともに、従業員たちのその後を追ったノンフィクションである。筆者は元日経ビジネス記者で、現在は日本経済新聞社編集委員。三洋電機の破綻までを描いた「三洋電機 井植敏の告白」をかつて上梓している。本書はその続編。組み込み業界や電機業界に関心をお持ちの方にお薦めの書である。
冒頭は井植敏と筆者の再会で始まる。筆者は前著に「あなたたち創業家がいい加減な経営をしてきたから、会社がこんなことになってしまったのではないか」とのメッセージを込めた。案の定、井植からは内容証明付きの手紙が届く。そんな筆者が8年ぶりに芦屋の井植宅をアポなしで訪れた。そのとき井植は、筆者を招き入れ2時間ほど取材を受ける。井植の人間性と筆者の取材姿勢をよく表している場面で印象的である。
火中の栗を拾った格好となった野中の回顧談も興味深いが、本書の肝は第4章~第10章で展開する従業員の“その後”だろう。事業の切り売りに伴ってハイアール(白物家電事業)や京セラ(携帯電話事業)に移った者のほか、人員整理を手掛けた人事部長が江崎グリコの広報部長に就いていたり、公募で校長になっていたり、電池のベンチャーを淡路島で起こしていたりと多彩だ。筆者は丹念な取材で彼らの今を克明に描いている。
筆者は冒頭でこう述べる。「会社が消えるという絶望的な状況から立ち上がった人々の物語は、現在進行形で困難な状況と闘っているすべてのビジネスマンに勇気と希望を与えるだろう。彼らは厳しい現実と折り合いをつけながら、新しい人生をつかみ取った。そのしなやかさ、したたかさこそが、これからの日本に求められる一番大切な資質だと思う」と。
書籍情報
会社が消えた日~三洋電機10万人のそれから~
大西康之、日経 BP 社、p.324、¥1728