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横田英史の読書コーナー

強欲の帝国:ウォール街に乗っ取られたアメリカ

チャールズ・ファーガソン著、藤井清美・訳、早川書房

2014.6.30  12:06 pm

 米国の金融業界の強欲ぶりと傍若無人ぶりを明らかにした書。強欲は金融業界だけではなく、産・官・学・政のすべてにわたり米国社会のシステムに根付いていることを、筆者は具体例を社名と個人名をこれでもかと挙げながら論じる。例えば政治と学会、金融業界がトライアングルを形成し、一人の人間がぐるぐる渡り歩く。個人名を挙げ指摘しているので迫力がある。この書評では、リーマン・ショックに関連して米国の金融業界を糾弾した書をいくつか取り上げたが、本書は具体例の多さと取り上げる範囲の広さで際立っている。ちなみに筆者は、映画「インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」でアカデミー賞(長編ドキュメンタリー映画部門)を受賞した監督で、本書は映画の内容を書籍化したもの。

 全編を通じて、筆者の怒りがひしひしと伝わってくる。筆者の怒りの矛先は、第一に詐欺まがいの行為によって金融危機を引き起こした銀行に向けられる。さらに、金融危機に乗じてアンフェアな取引で巨額な利益を出した銀行とその経営者が、まったく罪に問われていない点に怒りを募らせる。同時に階層が固定化され、格差が広がる米国社会に疑問を呈する。米国の現在を知ることのできるノンフィクションである。

書籍情報

強欲の帝国:ウォール街に乗っ取られたアメリカ

チャールズ・ファーガソン著、藤井清美・訳、早川書房、p.462、¥2916

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。