横田英史の読書コーナー
派閥~保守党の解剖~
渡辺恒雄、弘文堂
2014.7.8 3:07 pm
あの渡辺恒雄が、若手政治記者として活躍していた1958年に書いた処女作を復刊したもの。冒頭の力の入った記述は、30歳前後の気負いを感じさせて微笑ましい。もっとも“ナマモノ”の政治について55年も前に書かれた本なので、その分を割り引いて読む必要がある。当時と現在の政治状況の差は極めて大きい。逆に、こんな時代もあったのだと振り返るには格好の政治論になっている。政治に関心のある方や渡辺恒雄という人物に興味のある方なら読んで損はない1冊だが、なぜこの時期に復刊されたのか、少々不思議に感じるのも確かだ。
本書は前編と後編に分かれる。前編では派閥とは何か、領袖や政治資金、選挙制度、猟官、政策、官僚といった視点から分析する。派閥の威光が薄れた現在ではピンとこない面はあるが、なかなか読ませる議論を展開しており悪くない。特に人物評は官僚嫌いが露骨に出ており興味深い。冒頭部分の吉田茂、鳩山一郎、石橋湛山、岸信介に対する評価は「なるほど」と思わせる。省別の人物評も楽しめる。
後編は当時の派閥について解説を加える。派閥の成り立ちと変遷を詳細に解説する。取り上げているのは、岸派、大野派、河野派、石井派、池田派(佐藤派)、石橋派、三木派、大麻派、芦田派、北村派である。さすがに55年前の内容なので、知らない派閥もあり、ピンと来ない部分が少なくない。ただし領袖と呼ばれた実力者の面々の身の処し方には三面記事的な面白さがあるので、そこに注目すれば楽しく読める。
ちなみに筆者は派閥を「必要悪」とし、その効用を評価している。党内派閥は保守党にあって、党内デモクラシーの確保と党内運営の効率化の二面の効用があるとする。派閥をなくしてしまうと党首独裁制への道に通じる危険があり、派閥解消の議論は「偽善」とまで主張する。
書籍情報
派閥~保守党の解剖~
渡辺恒雄、弘文堂、p.256、¥1620
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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