横田英史の読書コーナー
紙つなげ!~彼らが本の紙を造っている~
佐々涼子、早川書房
2014.7.10 3:07 pm
東日本大震災で津波の被害を受けた日本製紙・石巻工場の被災から復活までを追ったノンフィクション。『エンジェルフライト』の著者らしく、現場を丹念に歩いて事実をきめ細かくすくい上げており、読み応え十分である。ノンフィクションとしての奥行きの深さは最相葉月が一段上に感じるがエンタテインメント性は佐々涼子が上回っている。
評者は電子書籍も愛読・愛用しているが、やはり紙の雑誌と書籍は格別である。紙は厚み、色、重さなど実に多種多様で味がある。その紙に印刷する手法にもオフセットとグラビアがあり、それぞれ異なる趣きを醸し出す。さらに活字とフォント。電子書籍にはないアナログの雰囲気は格別だ。紙が出来るまでについて言及する本書は、紙の書籍・雑誌好きに読んでいただきたい1冊である。
震災当時、評者は雑誌用紙手配の責任者だったこともあり、日本製紙に関する情報は逐次得ていた。しかし現場の技術者たちに奮闘ぶりを描いた本書によって、その詳細を初めて知ることができた。本書で繰り返し出てくる「8号(出版用紙を抄く機械)が止まるときは、この国の出版が倒れる時です」という言葉は、当時を思い出すとずっしり評者の胸に響いた。
書籍情報
紙つなげ!~彼らが本の紙を造っている~
佐々涼子、早川書房、p.288、¥1620
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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