横田英史の読書コーナー
David and Goliath:Underdogs, Misfits and the Art of Battling Giants
Malcolm Gladwell、Penguin
2014.7.15 1:33 pm
ニューヨーク・タイムズのブックランキングに入り続けているベストセラー。旧約聖書の「ダビデとゴリアテの戦い」と同様に、弱小で不利な立場に置かれた者でも有利な条件の強者を打ち負かせること、強みはときとして弱みになることを、多くの事例を挙げて論じている。米国の書らしく、豊富な事例が本書の特徴の一つだが、筆者の英語力では面白さが分からない部分が多かったのは残念だった。ちなみに著者のマルコム・グラッドウェルは、この書評でも取り上げた「第1感 『最初の2秒』の『なんとなく』が正しい」や「ティッピング・ポイント」などで知られたベストセラー作家。面白くないはずはないのだが…。
筆者は、強大な敵に勝った弱い人たちやグループ、チームの事例を数多く取り上げる。例えば戦争。10倍の国力をもつ大国が、小国に勝つとな限らない。通常でも勝率は70%。小国の土俵で戦った場合は30%にまで落ちるという。このほか、弱小の女子バスケットボール・チームが強敵を打ち負かした逸話、学校の教室の人数は少なければいい訳ではない「逆U字理論」、実力を発揮するならハーバード大学などのトップ大学よりも州立大学が有利というデータ、カルフォルニア州のスリーノックアウト法と犯罪被害者の話、1枚の写真が流れを変えた米国の公民権運動などのエピソードをふんだんに盛り込んでいる。
興味深いのは、文章が読めない識字障害者の話だ。多くの著名人を挙げ、識字障害を抱えていながら社会的に成功をおさめていることを明らかにする。特に建設労働者から大手法律事務所の会長になったDavid Boisesのエピソードは秀抜。文章を読めないことは法律家にとって決定的に不利なはず。しかし、文章が読めないから、シンプルに事実を理解するように努める。専門家でない陪審員や裁判官に対してはシンプルで分かりやすい説明を徹底することで裁判を有利に運ぶ。不利な条件を逆手に取ったわけだ。
書籍情報
David and Goliath:Underdogs, Misfits and the Art of Battling Giants
Malcolm Gladwell、Penguin、p.320、1318円($16)