横田英史の読書コーナー
電子立国は、なぜ凋落したか
西村吉雄、日経BP社
2014.8.10 6:02 pm
評者が日経エレクトロニクスに入ったときの編集長の手による日本の電子産業盛衰史。かつて世界を席巻した産業がなぜ凋落したかを、統計データを用いて定量的に分析する。編集長当時と同じく語り口は淡々としているが、切り口は鋭く説得力がある。日経エレクトロニクスDigitalでの連載を単行本したものなので、ウェブで読まれたEIS読者も多いかもしれない。しかし書籍には紙の良さがあり、多くの技術者の方にお薦めしたい。一つ前に取り上げた「日本企業はモノづくり至上主義で生き残れるか」と併せて読むと、分析と処方箋の両方をカバーできる。
本書の特徴は豊富な統計データと図を駆使した解説である。時系列で数字の傾向を把握することで、電子産業の盛衰を見事に描き出している。勢いがあったのは1970年から1985年。半導体などの軽薄短小産業が高度成長し、輸出主導で電子産業は大きく伸びた。貿易黒字は1985年に減少に転じたが、内需の増大がカバーし産業としての成長は続き、ピークの2000年には生産額が26兆円に達した。2000年以降はつるべ落としで生産額は減少。2013年は11兆円とピーク時に比べ半減するに至る。
ターニングポイントとなったのは1985年である。米国が日本の工業力を抑制する政策に転換した影響を受ける。同時に日本の電子産業は、垂直統合から水平分散へ、設計と製造の分離に向かう世界の動きを見誤った。自前主義に固執し、大きく後れをとる。本書はこうした産業の動きを、テレビ、通信、コンピュータ(パソコン)、半導体産業、基礎研究(国家プロジェクト)といった多角的な切り口から分析している。
書籍情報
電子立国は、なぜ凋落したか
西村吉雄、日経BP社、p.272、¥1944
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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