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横田英史の読書コーナー

新興アジア経済論~キャッチアップを超えて~(シリーズ現代経済の展望)

末廣昭、岩波書店

2014.8.27  10:01 am

 新興アジア諸国の発展パターンを分析し、彼らが抱えている経済的・社会的諸問題とともに日本の果たすべき役割を明らかにした書。生産するアジア、消費するアジア、老いゆくアジア、経済格差が拡大するアジア、疲弊するアジアといった切り口でアジア諸国の現状を分析している。図を上手く使い説得性をもたせており、この手の経済書としては分かりやすい。新興アジア諸国の現在と今後を考える上で貴重な情報を盛り込んでいる。アジア関連の仕事に携わっている方にお薦めの1冊である。

 本書が分析の対象にするのは、中国、インド、韓国、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、パキスタンの8カ国。例えば、「生産するアジア」では、鉄鋼産業と自動車産業を取り上げる。「消費するアジア」では、富裕層と中間層の成長が原動力になったことを明らかにするとともに、エネルギー消費と環境問題に言及する。東アジア域内の経済的相互依存が深化(アジアで生産しアジアで消費)し、「アジア化するアジア」の時代になっていると指摘する。

 「中所得国の罠」にはまったアジアについての論考は読み応えがある。低コストを前面に押し立てた経済発展は限界を迎えている。しかし新興アジア諸国における「GDPに占めるR&D支出の比率」はおしなべて低く、次のステップへの道筋が見えない。筆者によると、GDPに占めるR&D支出の比率で見た場合に、科学・技術志向国家かどうかの目安は2%。マレーシアが0.79%、タイが0.24%、インドネシアが0.1%と遠く及ばない。高所得国への移行は険しいと断じる。

 アジア諸国で生じている少子高齢化、貧困、自殺やうつ病患者の増大といった問題に対し、課題先進国である日本の果たせる役割は小さくないことが、本書を読むとよく分かる。

書籍情報

新興アジア経済論~キャッチアップを超えて~(シリーズ現代経済の展望)

末廣昭、岩波書店、p.248、¥2592

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。