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横田英史の読書コーナー

資本主義の終焉と歴史の危機

水野和夫、集英社新書

2014.9.10  10:42 am

 長期にわたってゼロ金利の日本経済から、資本主義の終焉と歴史の危機を読み取った書。金利は、資本の利潤率とほぼ同じ。利潤率が極端に低いということは、利潤を得て資本を自己増殖させる資本主義の基本が機能していないと主張するなど、現在世界で起こっている経済的・社会的な現象を独創的な切り口で論評している。スノーデン事件の位置づけなど牽強付会の面を感じるところもあるが、読み物として抜群に面白い。丸の内の丸善(オアゾ)でベストセラーを続けているのも納得できる。

 筆者は資本主義を、「中心」と「周辺」から構成され、周辺(フロンティア)を広げることで中心が利益率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステムだと定義する。先進国はフロンティアを途上国に求め、彼我のギャップを利用して経済発展を遂げた。ところがアフリカがフロンティアとして視野に入ってきた今、地理的な市場拡張は最終段階である。日本経済新聞の9月15日付朝刊の経済観測欄におけるYKK吉田忠裕 会長兼CEOによる「未開拓のフロンティアはもう残っていない」という発言とも一致する。

 一方、地理的な限界を感じた米国は資本主義を延命するために電子・金融空間を創造した。実体経済の空間からバーチャルな空間へと枠を広げ拡大したが、これも時間を切り刻み、1億分の1秒単位で投資しなければ利潤を上げられなくなった。資本が自己増殖するプロセスが断たれ始めてきたことこそが、資本主義が終焉する証左だと著者は主張する。

 ポスト資本主義の覇権は、資本主義とは異なるシステムを構築した国が握る。その可能性を最も秘めているのが、資本主義終焉の最先端を走る日本というのが筆者の見立てである。この好位置を生かすには、旧体制の価値観である成長戦略にとらわれてはいけない。積極財政政策は過剰な資本ストックをいっそう過剰にするだけである。アベノミクスの方向性に疑問を呈している。

書籍情報

資本主義の終焉と歴史の危機

水野和夫、集英社新書、p.224、¥799

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。