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横田英史の読書コーナー

日本の都市のなにが問題か(世界のなかの日本経済 不確実性を超えて 4)

山崎福寿、エヌティティ出版

2014.10.3  10:27 pm

 日本の都市がかかえている多くの問題が、都市計画や規制の失敗が原因になっていることを明らかにするとともに、計画の代わりに市場メカニズムを活用することの優位性を論じた書。都市計画や都市工学の専門家が分析しなかった問題について、筆者は経済学の立場から論じる。人口減少や高齢化、介護、相続税といった旬な話題を、都市計画や規制という切り口から取り上げており、一読の価値がある。

 筆者は、日本の都市計画の多くは失敗に終わったと断じる。多額の税金が投入されたインフラの多くが無駄な投資になった。本来開発すべきでない山沿いの危険な地域を開発したために、土砂災害の犠牲者が生まれたと嘆く。しかも計画を主導した官僚は失敗の責任を問われることはなく、都市計画や都市工学の専門家による失敗の研究も存在しない。筆者は、人口の減少や高齢化、モータリゼーションといった急激な社会の変化に対応するには、官僚やプランナーによる計画ではなく、社会の数多くのメンバーが参加する市場で、人々の英知を集約することが重要だと強調する。筆者の怒りと思いが詰まった書である。

 本書でまず槍玉に挙げるのは、容積率規制である。都市への人口流入を抑制しようとして導入したが、日本の都市構造を歪めたと糾弾する。このほか、借地借家法、定期借家権、マンションの立て替え、機能しない中古住宅市場を取り上げ、問題点と原因、解決策を経済学の知見に基づき論じている。

書籍情報

日本の都市のなにが問題か(世界のなかの日本経済 不確実性を超えて 4)

山崎福寿、エヌティティ出版、p.244、¥2592

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。