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横田英史の読書コーナー

イノベーション・オブ・ライフ~ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ~

クレイトン・M・クリステンセン著、ジェームズ・アルワース著、カレン・ディロン著、櫻井祐子・訳、翔泳社

2014.10.8  10:56 am

 「イノベーションのジレンマ」の著者クレイトン・クリステンセンがハーバード・ビジネススクールで行った最終講義。「イノベーションのジレンマ」は切れ味の良さが印象に残るビジネス書のベストセラーだが、クリステンセンが本書で語るのは「豊かで幸せ人生の歩き方」である。経営学の理論を家庭生活や子育て、キャリアの選択にどのように応用するかを10回の講義に分けて述べている。駆り立てられるようなビジネス書とは異なり、本書での語り口はゆっくりとして優しい。心に響く書だが、ところどころに登場する妙な翻訳が少し残念である。

 筆者は冒頭でこう述べる。ハーバード・ビジネススクールの同窓会には、ビジネスでの成功者が多く集まる。しかし年を追うごとに、不幸な結婚生活を送る者、離婚を繰り返す者、仕事上の葛藤に苦しむ者、犯罪に手を染める者など、同級生の多くは悩みを抱えるようになる。「なぜなのか」「何が道を踏み誤らせたのか」。これが本書の執筆動機という。そして、3つの疑問「どうすれば幸せで成功するキャリアを歩めるのか」「どうすれば伴侶や家族、親族、親しい友人たちとの関係を、ゆるぎない幸せのよりどころにできるのか」「どうすれば誠実な人生を送り、罪人にならずにいられるのか」に対し、著者の経営理論を適用したのが本書である。

 筆者は、ビジネスにおける成功例・失敗例、自らの体験を引用しながら、幸せなキャリアを歩む方法、幸せな人生を築く方法、罪人にならない方法を分かりやすく説いている。例えば第4講「口で言っているだけでは戦略にならないこの一度だけ…」では、キャリア形成について述べる。達成動機の高い人たちが陥りやすい危険は、いますぐ目に見える成果を生むキャリア形成に、無意識のうちに資源を配分してしまうこと。かつて一番大事だと言っていた家族に資源を振り向けなくなって、知らず知らずのうちに中身のない不幸な人生を築いてしまう。

書籍情報

イノベーション・オブ・ライフ~ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ~

クレイトン・M・クリステンセン著、ジェームズ・アルワース著、カレン・ディロン著、櫻井祐子・訳、翔泳社、p.264、¥1944

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。