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横田英史の読書コーナー

フラッシュ・ボーイズ~10億分の1秒の男たち~

マイケル・ルイス著、渡会圭子・訳、東江一紀・訳、文藝春秋

2014.10.24  12:07 pm

 米国の株式市場で常態化している、超高速取引に伴う「八百長」を白日のもとにさらした書。一般投資家が食い物にされている実態をこと細かに解説する。米司法省は本書の出版後、インサイダー取引の疑いがあるとして超高速取引を調査していることを明らかにしているし、FBIなども不正行為について捜査していると言われる。本書はノンフィクションの面白さを感じさせてくれる良書で、日米でベストセラーになっているのも納得できる。多くの方にお薦めである。米国で出版されたのが今年の4月なので、半年遅れで日本語版が読めるようになったのは実にありがたい。

 筆者は「ライアーズ・ポーカー」を皮切りに、「マネー・ボール」「世紀の空売り」と話題作を次々に出し続けるマイケル・ルイス。これほど当たり外れのないノンフィクションライターは珍しい。本書を読むと米国のウォルストリートで何が起こっているか、IT化された市場で一般投資家がカモられる仕組みがよく分かる。筆者は複雑な株取引のプロセスを丁寧に腑分けし、一般投資家と取引所、投資銀行、ブローカーたちの関係を分かりやすく解説する。手ぎわの良さはさすがである。米国の株取引や証券取引所、ブローカーの現状についての理解を助けてくれる。

 米国では証券取引所外のダークプールでやりとりされる取引が増大している。これが不透明な取引の温床となり、一般投資家の注文を10億分の1秒の差で先回りして売値を釣り上げる超高速取引業者「フラッシュ・ボーイズ」の跋扈を許した。こうした状況に立ち向かったのが、株取引の透明化を標榜する取引所 IEX を設立したブラッド・カツヤマである。本書は IEX設立までの道のり、出資者の反応、投資銀行の妨害工作なども詳細に紹介する。

書籍情報

フラッシュ・ボーイズ~10億分の1秒の男たち~

マイケル・ルイス著、渡会圭子・訳、東江一紀・訳、文藝春秋、p.346、¥1782

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。