横田英史の読書コーナー
大格差~機械の知能は仕事と所得をどう変えるか~
タイラー・コーエン著、池村千秋・訳、エヌティティ出版
2014.11.14 12:43 pm
富裕層と貧困層の差が拡大し中流層が縮小している原因を技術の急速な進化に見出し、こうした時代にどのように対応すべきかを論じた書。この書評で取り上げた「機械との競争」と路線は似ているが、主張の中核は正反対だ。近未来を考える上でのヒントを得る上で、両書を読み比べるのがお薦めである。
例えば本書は、機械と人間の共存を楽観的な視点から説いている。人間と機械が連携することで新しいアプリケーションの世界が広がると主張する。具体的な事例を挙げて説得力をもたせている。一方の「機械との競争」は、人間はすでにコンピュータとの競争に人間が負け始めており、これが雇用が回復しない原因だと主張する。たぶん社会の近未来は、本書と「機械との競争」の間を進んでいくのだろう。
本書の主張は、雇用の質や所得、住む場所、教育レベルにまで及ぶ「平均の終焉」だ。賢い機械の登場は、元に戻ることのない変化を社会にもたらした。テクノロジーに牽引された活力ある産業で働き、目を見張る成功をおさめる人と、それ以外のすべての人たちに社会を二分化した。先にも述べたように「平均は終わった」のである。
見どころは、人間と機械の認知能力をブレンドすることに未来を見ているところにある。人間とコンピュータのチームこそ、最強のチームだと主張する。生産性が高い働き手と賢い機械は、労働市場でこれまで以上に補完関係を強める。ただし人間と機械の恊働をうまく機能させるためには、教育と規制のあり方を変える必要があると述べる。現在の個人の能力評価システムは、人間と機械の恊働の実情に合っていないとする。
書籍情報
大格差~機械の知能は仕事と所得をどう変えるか~
タイラー・コーエン著、池村千秋・訳、エヌティティ出版、p.368、¥2592
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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