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横田英史の読書コーナー

ピクサー流 創造するちから~小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法~

エド・キャットムル、エイミー・ワラス、石原薫・訳、ダイヤモンド社

2014.12.19  10:21 am

 米ピクサー創業者エド・キャットムルが、設立までの経緯、ジョブズとの出会いと交流、「トイ・ストーリー」「モンスターズ・インク」といったアニメで成功するまでの道のり、クリエイティブな組織文化を創造し持続する苦しみなどを通して、自らの経営哲学と経営原則を明らかにした書。フォーブス誌が「これまで書かれた中で最高のビジネス書かもしれない」と本書を評したのも納得できる。この書評で以前、「The Pixar Touch」を取り上げたが、内容の濃さと役立ち感は本書が大きく上回る。米国のベンチャービジネスの底力と精神を知ることができる良書で、お薦めだ。

 筆者は執筆に2年をかけたという。確かにそれだけの内容に仕上がっている。技術者らしい冷徹な目で自らの経営手法を分析しており、ビジネスの成功者が自慢話を綴った書とは一線を画す。ビジネス書として優れた本書だが、ジョブズとの関係を振り返った終章「私の知っているスティーブ」は出色の出来である。感動的でさえある。ジョブズ好きには、ここを読むだけでも価値があるだろう。

 本書のポイントは、クリエイティブな組織文化を創造し持続する手法について詳細に論じているところ。ワーク・ライフ・バランスに対する考え方、社員に率直な意見を交換させる「ブレイントラスト」と呼ぶ仕組みなど、経営手法として示唆に富んでいる。とりわけブレイントラストを活用してアニメーションを優れた作品に仕上げる過程を詳らかに解説したところは読み応え十分である。

書籍情報

ピクサー流 創造するちから~小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法~

エド・キャットムル、エイミー・ワラス、石原薫・訳、ダイヤモンド社、p.424、¥1944

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。