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横田英史の読書コーナー

労働時間の経済分析~超高齢社会の働き方を展望する~

山本勲、黒田祥子、日本経済新聞出版社

2014.12.24  10:23 am

 日本人の働き方について、定量データに基づいて論じた経済書。個票データを用いた詳細な分析・検証から「長時間労働には一定の経済合理性がある」「多くの仕事に過度なサービスを要求する非効率が常態化している」「周囲の環境次第で働き方は変えられる」といった知見を得ている。地に足の着いた議論を展開しており、読んでいて納得感がある。ワーク・ライフ・バランス、非正規雇用、メンタルヘルスと長時間労働といったことに興味を持っている方に強くお薦めしたい。特にワーク・ライフ・バランスと生産性、メンタルヘルスと企業業績についての議論は示唆に富むとともに意外性があり必読といえる。

 本書はまず、日本人の労働時間の推移を取り上げる。1980年以降、1人当りの平均労働時間は趨勢的に減少しているが、パートタイム雇用者比率の上昇と時短政策に伴う週休2日制の普及にその原因を見出す。フルタイム雇用者の労働時間はこの25年間、ほとんど変化していない。週休2日制で休日の数は増えたが、休日でない就業日の労働時間を増やすことで補った。筆者はその後、労働時間規制と正社員の働き方、長時間労働と非正規雇用問題、労働時間と職場環境、ワーク・ライフ・バランス施策は生産性を高めるか、メンタルヘルスと企業業績の関係といった魅力的なテーマを取り上げ、最後に政策的・制度的な提言に議論を進める。数式が登場するところもあるが、読み飛ばしても差し支えない。

 日本人の労働について問題なのは、時間あたりの生産性が低いことだ。低い生産性を補うために労働時間を伸ばさざるを得ないという構図が成り立つ。日本人は「効率的に非効率なことをする」という指摘は耳が痛い。例えば社内や部内会議の検討資料。日本人は総じて仕事の遂行能力が高いために、詳細でレイアウトなども凝った美しい検討資料が効率的に用意されることが多い。しかし、しょせん社内や部内で検討を行うための資料。完成度が求められるとはとうてい思えない…。こんなことが労働時間の長時間化につながっている。筆者は職場環境によって、1年で約14日分に相当する時間を無駄に職場で費やしていることを明らかにする。

書籍情報

労働時間の経済分析~超高齢社会の働き方を展望する~

山本勲、黒田祥子、日本経済新聞出版社、p.366、¥4968

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。