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横田英史の読書コーナー

病室の「シャボン玉ホリデー」~ハナ肇と過ごした最期の29日間~

なべおさみ、文庫ぎんが堂

2014.12.29  10:24 am

 もって2日という末期肝臓がんで死の床についたハナ肇。その入院から死亡までの29日間を、かつて付人だった著者(なべおさみ)が克明に綴った書だ。ハナ肇の交友の広さ、人となりがよく分かる。なべの看病は壮絶の一語に尽きるが、言葉を介さないハナ肇との心の交流はグッと来るものがある。闘病生活は同じのことの繰り返しにならざるをえないので少々ダレる箇所もあるが、中盤以降は華麗な登場人物のおかげでぐっと盛り上がる。巻末の花田紀凱の解説はなかなか読ませる。少々長編だが肩のこらない内容なので、オフの日に読むのがお薦めである。

 秀抜なのは見舞客とハナ肇が繰り広げるやりとりの数々だ。家族やクレージーキャッツのメンバーだけではなく、ザ・ピーナッツ、布施明、渡辺美佐(渡辺プロダクション社長)らの見舞客の様子を、なべは見事な観察眼で描いている。王貞治の名前も何度も出てくる。それにしてもザ・ピーナッツの佇まいと布施明のエンターテナーぶりは素晴らしい。とりわけ即興の「シャボン玉ホリデー」は実にいい。ちなみにハナ肇の亡くなった直後に病室に飛び込んできたのは、誰もが知っている意外な人物である。間の悪さはこの人らしい。

書籍情報

病室の「シャボン玉ホリデー」~ハナ肇と過ごした最期の29日間~

なべおさみ、文庫ぎんが堂、p.416、¥972

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。