横田英史の読書コーナー
人と企業はどこで間違えるのか?~成功と失敗の本質を探る「10の物語」~
ジョン・ブルックス、須川綾子・著、ダイヤモンド社
2015.1.2 10:26 am
ビル・ゲイツが2014年に「最高のビジネス書」として取り上げたことで有名になったノンフィクション。ゲイツはウォーレン・バフェットから渡された本書を繰り返し読んだという。米国の資本主義経済の特徴づける、1960年代前後に起こった10件(原書は12件)の出来事を取り上げる。単に事実を追うだけではなく、人に焦点を当てながら経緯を明らかにしているところがいい。登場人物はいずれも実に魅力的である。ちなみにゲイツが推薦した当時、原書は絶版だったが、2014年夏に復刻された。評者もさっそく購入して読み出したものの、本書が収録していない第2章「The Federal Income Tax(米国連邦税法)」で挫折。この第2章と第12章「In Defense of Sterling(金本位制)」を日本語版で省いたのは正解だろう。
本書で取り上げているのは、マーケティングの失敗、大企業による談合事件、インサイダー取引事件、株式市場の大暴落、イノベーション、経営危機に陥った金融機関の救済、人材の流動性と営業機密の問題など。いずれも米国経済にとって切っても切れない話題である。1960年代の話が多いが今読んでも古さを感じない。筆者の取材力と筆力はさすがである。
最初に取り上げるのは、米フォードが社運をかけて投入したクルマ「エドセル(EDSEL)」。デザインから命名、広告宣伝に至るまで、市場調査の結果に忠実に従いすぎたのが敗因というのが通説になっているが、筆者は丹念な取材でこの通説を否定するに至る。エドセルについて、ここまで詳しい分析を呼んだのは初めてで、評者にとって興味深い内容だった。ちなみに原書にはないエドセルの写真が挿入されているのは、デザインに関する記述が多いので有り難い。
米ゼロックスの成功物語は、イノベーションとは何かを考える上で示唆的である。無名の発明家だったチェスター・カールソンは、他の技術分野で用いられている工程を組み合わせることで、「エレクトロフォトグラフィー(電子写真術)」、つまりゼログラフィの発明に至った。使ったのは、どれも地味でありふれた現象だった。しかし、それまで誰も組み合わせて利用しようとは思わなかったところからイノベーションが生まれたのだ。
書籍情報
人と企業はどこで間違えるのか?~成功と失敗の本質を探る「10の物語」~
ジョン・ブルックス、須川綾子・著、ダイヤモンド社、p.368、¥1944