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横田英史の読書コーナー

バブル獄中記

長田庄一、幻冬舎アウトロー文庫

2015.1.5  4:01 pm

 バブル崩壊の影響で経営破綻に追い込まれた第二地銀・東京相和銀行の創業者・長田庄一が綴った獄中記。関連会社3社への迂回融資で増資したように装った虚偽登記疑いで逮捕され、約100日間にわたって勾留された時に書き留めたメモがもとになっている。拘置所での生活、検察官や弁護士、看守とのやりとりを、事細かく記載している。森喜朗、竹下登、福田赳夫、亀井静香といった政治家に対する人物評が面白い。ちなみに長田庄一の経歴や周辺状況の解説文が各章の間に挿入されているが、ここが役立つ。自己弁護や自慢話に終始していないので、あの時代を振り返りたい方にお薦めしたい書である。

 長田は、尋常小学校卒で職工や駅の雑役を経て国鉄に通信手として就職。戦後、商才を活かして西新宿に無尽会社「平和勧業」を立ち上げた。これが後に東京相和銀行となる。東京相和銀行は内紛や乗っ取り話の絶えない銀行だったが巧みに切り抜ける。残念なのは、この手の話が本書にまったく登場しないところ。「バブル獄中記」と言いながら、金に踊ったバブルについてほとんど触れていないのは期待外れだった。当事者の一人として長田は、バブルの裏側について多くの“事実”を知っているはずだけに物足りない。ビジネスの話にも言及していない。他行に先駆けてATMの24時間稼働を始めたり、消費者ローンの先駆け「奥様定期」を手がけるなどアイデアマンだったらしいが、この手の話も登場しない。

書籍情報

バブル獄中記

長田庄一、幻冬舎アウトロー文庫、p.237、¥626

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。