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横田英史の読書コーナー

大統領のリーダーシップ

ジョセフ・S. ナイ、藤井清美・訳、東洋経済新報社

2015.1.8  4:03 pm

 ソフト・パワー論で知られる国際政治学者ジョセフ・ナイが、8人の米国大統領のリーダシップを独自の視点から採点した書。俎上にのせるのは、T・ルーズベルト、タフト、ウィルソン、F・ルーズベルト、トルーマン、アイゼンハワー、レーガン、ブッシュ(父)。ケネディやニクソンが除かれているのが残念である。米国人が8人の大統領にどういったイメージをもっているのか、大統領としてのどういった業績を挙げたか、どういった役割を果たしたか、倫理的だったかといった観点から分析する。倫理的(道徳的)という切り口から、意外な人を高く評価しているのが興味深いが高い。リーダシップとは何を考える上でのヒントを与えてくれる良書でお薦めである。

 ナイはリーダーの特質を変革型と取引型の二つのタイプに分けた上で、米国の優越性を作り出したのは、必ずしも強烈な印象を与えたり国民を奮い立たせた大統領ではないという。変革型リーダーが外交政策でよる有効なリーダシップを示すという安易な思い込みを戒める。取引型の方が、大きな成果を上げるとともに倫理的にも優れていた。崇高なビジョンで人々を奮い立たせるだけではなく、効果的かつ道徳的で実行可能にするシステムや制度を構築、維持したと結論付ける。

 本書の締めくくりはこうだ。「21世紀の米国の役割に関する課題は、お粗末に定義された「衰退」という問題ではない。状況把握の知性を磨いて、他国の助けがなければ所望の結果を実現できないことを理解しなければならない。グルーバル時代の環境で国民がそれを理解してうまくやっていくようにするために、国民を教育することが、大統領のリーダーシップのもっとも重要な課題になる」と。

書籍情報

大統領のリーダーシップ

ジョセフ・S. ナイ、藤井清美・訳、東洋経済新報社、p.245、¥1944

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。