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横田英史の読書コーナー

イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る~雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言~

デービッド・アトキンソン 、講談社+α新書

2015.1.13  12:03 pm

 元ゴールドマン・サックスのアナリストで、現在は日本の国宝・重要文化財を修復する創業300年の老舗・小西美術工藝社の社長を務める筆者による日本論。30年にわたるアナリストとしての視点から日本を辛辣に診断する。文化、経営、経営者について持論を展開している。日本の企業や経営者、とりわけ銀行に対する辛口批評は読み応えがある。書き口は軽妙なので、あっという間に読み終えることができる。週末の暇つぶしに向く。

 筆者は、「シンプルアンサーが大好き」「因果関係や数字を無視して都合の良い話を無理やり結びつけて安心する」といった日本人や経営者の愚かな点を次から次へと槍玉に挙げる。とりわけ、アナリストとして対峙した日本の不可解な経済人に対しては辛辣だ。論理的に見れば明らかに答えは出ているにもかかわらず目を逸らす、数字に基づいた分析をしない、理由をこじつけて何もしない、働かない、決断しない、と手厳しい。サービス業の勘違いや「おもてなし」についての指摘は耳が痛いが、一読の価値がある。

 一方で日本の経済の伸びしろは大きく、「やるべきことをやれば劇的に改善する」と希望を語る。そのなかで筆者が成長の原動力として焦点を当てるのは、文化財保護と観光である。いずれも現状では不十分だが、しっかり手当をすれば地方振興や若年層の雇用改善につながるとする。

書籍情報

イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る~雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言~

デービッド・アトキンソン 、講談社+α新書、p.208、¥907

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。