横田英史の読書コーナー
朝日新聞~日本型組織の崩壊~
朝日新聞記者有志、文春新書
2015.1.19 10:55 am
慰安婦問題と吉田調書問題、池上コラム掲載拒否問題と不祥事が相次いだ朝日新聞。その朝日新聞の記者が、匿名で社内の実態を明らかにした書である。取り上げるのは、硬直化した官僚主義、記者たちの肥大化した自尊心と自己保身のせめぎあい、エリート主義、減点主義の人事評価システム、派閥の暗闘、無謬神話、上意下達の日常化といった話。副題に「日本型組織の崩壊」とあるが、エリート組織にありがちな話が次から次へと登場する。その意味で予定調和的であり、評者のような同じ業界にいる人間はともかく、多くの方にとって得るところはさほど多くないかもしれない。
本書は5章に分けて朝日新聞の状況を分析する。第1章は「内側から見た朝日新聞」と題し、高学歴・高収入・高プライドの“朝日人”の素顔を紹介し、人事に狂奔する姿や社員の格付け、社会部と政治部の確執といった内情を暴露する。第2章は吉田調書、第3章では慰安婦問題を紹介する。第4章と第5章では、それぞれ社内政治と企業としての朝日新聞を取り上げる。
評者にとって参考になったのは吉田調書問題を扱った第2章だ。吉田調書でスクープを放ったはずだった特報部の存在や誤報の背景を歴史的背景をたどりながら紹介する。特に「吉田調書の記事に現場が出てこない」という指摘は鋭いし、評者もドキッとさせられた。朝日新聞記者有志が問題として挙げるのは、現場に行って生身の言葉を聞かず、資料をつなぎあわせただけでストーリーを作っている点だ。新聞記者が最もやってはならない行為だと厳しく非難する。もう一つ見逃せないのは、特報部に「意図的に記事を加工した」という自覚がないという指摘。許される範囲でエッジを利かせた、記事にいくばくかの大袈裟なメリハリをつけた、といった程度の認識だったという。現場の声がないぶん、文章を飾ることで盛り上げようとしたともいえそうだ。
書籍情報
朝日新聞~日本型組織の崩壊~
朝日新聞記者有志、文春新書、p.254、¥842
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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