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横田英史の読書コーナー

捏造の科学者~STAP細胞事件~

須田桃子、文藝春秋

2015.1.28  10:58 am

 「科学史に残る捏造“STAP細胞事件”」を追った、毎日新聞科学環境部の記者によるノンフィクション。淡々とした語り口で大向こうを唸らせるケレン味こそないが、内容はシッカリとしており面白い。理化学研究所の笹井芳樹や山梨大学の若山照彦といったSTAP細胞事件関係者と交わした数々のメールや直接取材、当時の毎日新聞社内やマスコミの動きを丹念に振り返り、「あのとき何が起こっていたのか」「不正はどこから始まったのか」「誰が関わったのか」「なぜ捏造したのか」を解明しようと試みる。400ページ弱の書だが、内容が濃く読み応え十分である。

 一つ前に取り上げた小畑峰太郎著『STAP細胞に群がった悪いヤツら』が想像の翼をひろげて一気に核心に迫ろうとする読み物であるのに対し、本書は事実をコツコツと積み上げるスタイルをとる。図や写真を使って、読者が理解しやすいように配慮している点も評価できる。摩訶不思議なSTAP細胞事件だけに、腑に落ちない所は結局残るのだが、筆者の科学ジャーナリストとしての思いは伝わってくる。この書評では、『背信の科学者たち~論文捏造はなぜ繰り返されるのか?~』や『国家を騙した科学者~「ES細胞」論文捏造事件の真相』をかつて取り上げた。本書はこれらに並ぶ良書といえる。一大スキャンダルを忘れないためにも一読をお薦めする。

 本書は、2014年1月末に行われたSTAP細胞の記者発表から始まる。内容が全く触れられていない記者発表の案内を不審に思った筆者は、取材を通して面識のあった笹井に問い合わせる。返信には「須田さんの場合は絶対に来るべきです」と。記者会見では、iPS細胞を超える発見と強調され、発見者の小保方晴子にもスポットライトが当てられる。マスコミや社会は興奮に包まれ大騒ぎとなる。ところが発表直後から、論文に対し数々の疑惑は持ち上がる。そのたびに反論や言い訳に走る関係者というパターンが何度も繰り返される。理研とSTAP細胞関係者は徐々に追い詰められ、不正の認定、論文撤回、関係者の自殺と退職といった道をたどり幕引きを迎える。

 筆者は、それぞれのタイミングで関係者と交わしたメール、直接取材、電話取材などを紹介することで真相に迫ろうとしている。ちなみに、『STAP細胞に群がった悪いヤツら』で取り上げられている、インサーダー取引疑惑について本書はまったく言及していない。

書籍情報

捏造の科学者~STAP細胞事件~

須田桃子、文藝春秋、p.383、¥1728

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。