Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

(シリーズ 現代経済の展望)日本経済の構造変化~長期停滞からなぜ抜け出せないのか~

須藤時仁、野村容康、岩波書店

2015.2.6  10:28 am

 1991年度に479兆円だった日本の名目GDPはその後ほとんど伸びず、2013年度で481兆円にとどまる。本書は日本が長期にわたる低迷から抜け出せない主因を解き明かし、富の再配分の強化によって所得を伸ばすのがポイントとする処方箋を示した経済書。リベラルな岩波書店臭さが気になる部分もあるが、数字をしっかり押さえた地に足の着いた議論は説得力をもっている。日本再生に関心のある方には一読をお薦めする。
 筆者は日本経済の構造が、生産性の低いサービス業に産業構造が移行した1998年ころに大きく転換したことを経済指標に基いて明らかにする。米国では流通(卸売・小売)、運輸、金融、対事務所サービスといったITを活用するサービス産業部門を中心に生産性が急速に高まった。ところが日本では、情報ネットワークが企業内にとどまり企業間に及ばない。ITを導入しても組織改革や業務プロセス改善にうまく結び付けられず、IT利用による生産性向上効果が出なかった。結局、産業構造のサービス化が日本経済の停滞をもたらした。
 安定成長期に労働生産性が上昇していたにもかかわらず労働分配率を抑制され、労働と付加価値の分配の比率が生産性と不整合だったことも経済の停滞を招いた。雇用者報酬が伸び悩んだ結果、消費の停滞につながった。この状況を打開するには、所得格差を縮めることが重要になる。所得格差を縮めることによって、消費を押し上げるだけではなく、公共投資や輸出が拡大した場合に経済を押し上げる乗数効果を期待できると主張する。

書籍情報

(シリーズ 現代経済の展望)日本経済の構造変化~長期停滞からなぜ抜け出せないのか~

須藤時仁、野村容康、岩波書店、p.272、¥2700

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。