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横田英史の読書コーナー

(シリーズ 現代経済の展望)租税抵抗の財政学~信頼と合意に基づく社会へ~

佐藤滋、古市将人、岩波書店

2015.3.18  11:45 am

 日本の租税負担率は先進国で最低水準だが、納税の痛み「痛税感」や「租税抵抗」はきわめて強い。著者はその理由を、歴史的な背景や海外との比較を通して探るとともに、今後に向けた処方箋を提示する。時宜を得た切り口の好著である。所得税の税収調達力の回復が重要という主張や岩波書店らしいリベラルな思想に賛否があるだろうが、格差や貧困の対策など日本の今後を考えるうえで貴重な知見を含んでおり読んで損はない。

 著者が槍玉に挙げるのが「受益者負担」の論理である。政府は租税抵抗に正面から向き合わず、減税を繰り返した。その結果、財政は赤字にまみれ、租税体系が根本的に崩れてしまった。そこで財政再建の方策として持ち込んだのが、「公平の確保」の建前のもとに自己負担を求める「受益者負担」だ。しかも受益者と非受益者とを区別し、対立させたうえで「公平」の観点からサービスの対価を受益者から徴収する狡猾な手法を手厳しく批判する。

 しかも受益者負担は、最も公共サービスを必要とする人々に負担を集中させ、公共サービスから利用者を遠ざけた。しかも範囲はどんどん拡大し、難病対策という性質上なじまない領域まで拡大している。この状況を打ち破る最後の手段が、逆進性のある消費税ではなく、累進的な所得税の税収調達力の回復というのが筆者の主張である。

書籍情報

(シリーズ 現代経済の展望)租税抵抗の財政学~信頼と合意に基づく社会へ~

佐藤滋、古市将人、岩波書店、」p.218、¥2484

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。